同時に、トヨタの伝統的な組織風土、「教え/教えられる風土」を背景とした教育システムにも綻びが生じていた。意思決定のスピード化を進めるため、1990年代から進められた組織のフラット化により、管理職の人数が減り、管理職が自然に育つ育成システムは消滅。00年代半ばには、フラット化の見直しが図られたものの、バブル崩壊後の採用人数を抑制した影響もあって30代から40代前半の中堅層は減少。職場でのOJTは機能しにくくなってきていた。

研修も社内講師によって行う「研修内製」が基本だったが、急拡大する中で社内の活躍人材を育成に振り向ける余裕はなくなった。外部講師の派遣や短期のMBA留学などの外部研修も増加。また、全階層向けの教育よりも選抜教育に重点を置かれるようになった。

急拡大の裏側で組織内の教育体制に綻びが生じていたトヨタに降りかかったのが、08年のリーマンショックによる赤字転落と、それに続く北米での大規模リコールにつながる品質問題だ。その後も、東日本大震災やタイでの大洪水による工場被害などが続き、業績は低迷。13、14年は、為替の追い風もあって急回復したものの、同じ轍を踏むまいと14年に打ち出されたのが、大規模な教育改革だ。14年5月に豊田章男社長が記者会見で語った「意思を持った踊り場を設けて、これからの持続的成長につなげていく」という言葉にも表れているように、次なる成長に向けて人材を育成し、地固めしていかなければ、という危機感を持った改革といえるだろう。

社長 豊田章男氏●1956年、愛知県出身。慶應義塾大学法学部卒。米国バブソン大学経営大学院にてMBA取得。投資銀行を経て84年同社に入社。2009年より現職。

では、今回の教育改革の目玉はなにか。ずばり、「OJTの再強化」と「教え/教えられる風土」への回帰である。

トヨタは、ほかの日本企業と比べても特にOJTを重んじる組織風土が強い。「退職の挨拶でも、『自分が受けてきた以上のことを、部下に与えて育成することこそが、育ててもらった先輩への恩返しだ』といったことがよく言われます(上田常務)。

トヨタには「トヨタの問題解決」といった標準的な仕事の進め方、思考方法の型があり、型の伝承は研修だけでなく、職場でのOJTと連動することによって伝えられてきた。8つのステップで問題解決を行い、それをA3用紙1枚にまとめる手法は、全トヨタ社員が身につけていることで知られているが、これも徹底したOJT教育によるものだ。