なぜ「内省」は社員の成長を促すのか
企業人対象のワークショップで、私がよく使うツールがレゴブロックです。若手に対して「自分の今の職場の状態をレゴで表現してください」というお題を出すと、どんな形が出てくるでしょうか。
上司が一段高い場所にいて、自分も含めた部下が周りを取り囲んでおり、上司には頭の部分がついているが部下にはないというパターンがまずひとつ出ます。複数の上司に囲まれ、好き勝手を言われている様子を再現する人も多く、また上司に背中を押され、高い場所から突き落とされそうになっている状況を表現する人もいます。言われた通り動けばいいと思っている、複数の上司から気まぐれな指示が飛ぶ、きつい仕事を押しつけるだけでサポートしてくれない……いずれも、若手にとっては悲惨な状態です。
職場がこんな状態では誰もやる気が起きず、社員も会社も成長できないのは確実です。無気力は決して個人の資質の問題ではありません。無気力は学習されて獲得されるものなのです。職場を、「無気力社員の生産工場」にしないためにはどのようにすればいいでしょうか。
まずは、社員の成長実感を向上させるために、何をすればいいのかについて考えてみましょう。多くの人々は、その処方箋として「研修」を挙げるかもしれません。企業ではもっぱら、仕事の現場と切り離した施設などで研修が行われています。しかし最も効果が高いのは、実際の仕事の現場で自分の仕事を振り返る場や機会の存在だと私は考えます。仕事場と切り離しての研修は、社員の意識が「仕事は仕事、研修は研修」と分けられてしまいがちで、研修で得たスキルが実際の仕事に活かされにくくなってしまいます。また研修で得られたことも現場で活かされることはありません。
それでは、私たちは何をなすべきでしょうか。仕事を正当に評価し、できる人には金銭やポストで酬いるのが人事の基本ですが、それ以前に、部下のやる気を喚起するには仕事を通じて「自分が成長しているんだ」という実感を持たせることがポイントとなります。これはよく言われていることかもしれませんが、問題はその方法です。
このような話をすると、「仕事のやり方を手取り足取り教え、成果が出るようにすればいいんだろう」という人も多いのですが、数々の研究成果が示唆するところでは、それでは部下が成長の実感を持つことはあまり期待できません。むしろ大切なのは、本人の行動や仕事の成果について、自ら振り返る機会をいかに与えるかということです。それを促す働きを、私は「内省支援」と呼んでいます。