トヨタの研修は内省支援そのもの

私と産業能率大学の長岡健教授が協働研究として取材したケースでは、トヨタ自動車のOJTは、“内省支援”の観点から非常に興味深いものでした。トヨタは人材育成の基本をOJTに置いています。このOJTの基本が、TBP(TOYOTA Business Practice)と呼ばれる問題解決型の思考と行動のスタイルを習得することです。TBPの特徴は、問題を自ら発見することから「問題解決」を始めることにあります。

トヨタの問題解決研修では、自分の職場で上司や先輩に指導してもらいながら、問題の設定自体から研修がスタートします。研修の結果はA3用紙1枚にまとめて、最終発表会で発表されます。

この研修では、問題設定時に上司や先輩から「それは本当に問題なのか」と繰り返し確認されます。「何が本質的な問題か」ということを何度も問いかけることにより、若手社員が無意識のうちにとっている行動や考え方のパターンを批判的に振り返らせることができるのです。これはまさに内省支援といえます。

また、最終的に自分の考えをA3用紙1枚にまとめるところにもこの研修のポイントがあります。問題の本質を捉えていれば、必要な説明はシンプルにまとめられるというのがTBPの考え方です。

若手社員はA3用紙1枚に自分の考えをまとめようとするうちに、上司に自分の考えが伝わらない理由や上司と自分の考え方の根本的な違いを、突き詰めて考えます。この過程で彼らは他者理解と自己理解を同時に深めることができるのです。人材に定評のあるトヨタですが、内省支援を社内の若手社員に積極的に行うことにより、強い組織を保ち続けているというわけです。

部下のやる気を引き出し本気にさせる「経験学習モデル」について説いてきましたが、最後にもうひとつ、会社外での勉強会や読書会への参加を促してみることもお勧めします。学習の場は職場だけではありません。社外で自分の仕事の意味や能力を客観的に確認できるかもしれません。会社の欠点だと思っていたことが世間的には評価されていたりもする。視野を拡大させると、仕事に対する新たな意欲が湧いてくるものです。

(構成=荻野進介 撮影=大杉和広)