トヨタのOJTが特徴的なのは、単に「教えられる」だけでなく、「教える」文化も根づいているところにある。「トヨタのOJTの仕組みは、権限委譲とセットになっています。本来自分がやるべき仕事を、部下や後輩に任せて教える。自分は、ひとつ上の仕事を先輩に教えてもらいながらやる。そして、仕事がうまくいけば本人の成果。失敗したときは上司の責任。そういう文化なんです」(上田常務)。
トヨタのOJT文化を継承していくうえでまず重要なのは、入り口である新入社員研修だ。今回の教育改革では、これまで半年だった新人研修を1年に延ばし、「基礎固め徹底プログラム」として刷新した。以前は本配属が9月だったところを、翌年4月とし、販売店、工場、本社の各部門へ2、3カ月ずつ派遣し、各分野の基礎知識と現場感覚を養う期間をもうけた。
4年目以降にも、「かわいい子には旅をさせよ」という方針で、原則全員が工場や販売店、海外の事業体などへ1~2年派遣される「修行派遣プログラム」で業務経験を積む。
経営者の凄みを知る“かばん持ち”研修
幹部候補向けの選抜型研修も一新された。以前は、短期MBAに参加し、経営課題について分析を行い、最後に経営陣に対して提言を行うといったプログラムが行われていた。しかし、「どこか提言をまとめるだけで終わってしまっている物足りなさがありました。経営というのは、工場を閉める、取引先との関係を断つ、など非常に悩ましい判断が迫られるものです。ですが、提言だけであれば、そうした悩みを理解せずに軽くスッとできてしまう。それでいいのか? となったのです」(上田常務)。
そこで、将来の役員候補としての「覚悟を醸成してもらうこと」に目的を絞って新設されたのが、部長・次長級社員の経営方針策定部署への3カ月の派遣と、課長級社員の副社長以上への秘書実習を行う「トヨタ流OJT型選抜研修」である。課長級の選抜者は、短期間のMBA派遣の前後で、会長、社長、副社長の秘書として配属され、約4カ月間、いわば“かばん持ち”として随行し、「トップの胆力」を間近で体感するという究極のOJTだ。