猛烈な非伝統的民主化が始まっている

ある程度まとまったお金を借りる必要がある時は銀行にお世話になる事が多い。教育ローン、自動車ローン、住宅ローン、そしてリフォームローンが人気だろうか。日本では、昔は「団地金融」や「サラリーマン金融」という今となっては不思議な名前の小口貸し出しもあったが、近年こういった使途の自由なものも銀行グループに吸収され、多目的ローンとして扱われている。無担保で10万円~300万円位の資金を(多目的ローンで)借りると5~7%の金利となっているようだ。銀行預金も調達金利もほぼゼロに近いので、銀行にとっての儲けは5~7%から不良債務を引いたものとなる。

イマドキの欧米ではMarketplace Lending(マーケットプレイス・レンディング)やP2P(ピー・ツー・ピー、Peer to Peerの略)と呼ばれるサービスがある。2000年代中盤からトレンドになってきたのだが、インターネットの各社ウェブサイトを介してローンができ、その金利は銀行よりも平均で3割程低くなっている(借り手の信用状況や期間にもよってピンキリだが、現在のローン金利は約5~30%)。

これだけだと銀行のインターネット・バンキングの仕組みと何も変わらないのだが、同じウェブサイトでそういったローンへの貸し手・投資家も募っているのだ。信用格付け別にパッケージがアレンジされている場合が多いが、平均して(不良債債権含む)年率で5~10%程のリターン、預金性金融商品が金利数%の中、とても魅力的。個人だけでなく中小企業対応もあり、数万円~数百万円規模のローンと、それに対応する貸し手・投資家をひたすらマッチングするシステムで、低コストという利点が借り手と投資家に還元されている。

彼らのウェブサイトを訪れる事を是非ともお薦めしたい。自己責任原則を担保する上でのディスクロージャーの良さ、サービスとして徹底した使いやすさなど、学ぶ事は多い[3]。

世界でこういったプラットフォームで貸し出される金額はここ数年急増してきたが、昨年は合計240億米ドルとも言われている。ただ、この約半分弱が米国であり、英国、中国、そして世界的な拡大が今後想定される。米国や英国ではご想像のつく通り、もう伝統的金融機関による、こうしたMarketplace LendingやP2Pを運営しているFinTech企業の買収や提携が始まっている。また、こういったローンに対するヘッジファンドや機関投資家の投資も急騰。伝統的な金融市場とこのローン市場との(資金フローの)融合にまで達している。

日本にまったく何も無い訳ではない。ソーシャルレンディング系としてmaneo(マネオ)[4]やAQUSH[5]があるが、いずれも貸金業や第二種金融商品取引業の登録をし、集団投資スキーム、預託と匿名組合への出資を組み合わせた複雑な設定になっている。法整備以外に日本独特の金融経済趣向もあり、海外のように一般市民を動かし、伝統的な金融サービスを破壊するにはまだ課題が多い。

前述の(貸金・ローンにおける)イノベーション例はFinTechが起こしているパラダイムシフトと、日本が抱える構造的問題のごく一部に過ぎない。次回は他のFinTechについても幾つか紹介したい。

おことわり:本コラムの内容はすべて執筆者の個人的な見解であり、トムソン・ロイターの公式的な見解を示すものではありません。

[脚注・参考資料]
[1]“The Future of Financial Services”, World Economic Forum http://www.weforum.org/reports/future-financial-services
[2]その時代や分野において当然だった認識・思想・価値観が、大きく変化する事
[3]ご参考 Lending Club https://www.lendingclub.com/ , Prosper https://www.prosper.com/ , OnDeck(事業特化型)https://www.ondeck.com/ , Zopa http://www.zopa.com/ , Upstart https://www.upstart.com/invest , Lendinvest(不動産特化型) https://www.lendinvest.com/ , Funding Circle(事業特化型)https://www.fundingcircle.com/uk/
[4] https://www.maneo.jp/
[5] https://www.aqush.jp/

渡辺竜士(わたなべ・りゅうし)●トムソン・ロイター・マーケッツ執行役員。1972年、東京都生まれ、米国育ち。96年慶應義塾大学総合政策学部卒、同年野村證券入社。99年スイス野村バンク、2006年野村證券グローバルヘッジファンドセールスなど、主に国際部門にて経験を重ねる。12年野村インターナショナル(香港)のマネージング・ダイレクターを経て、14年よりトムソン・ロイター・マーケッツに入社して現職。トムソン・ロイターの経営企画や営業戦略等を担当している。
→トムソン・ロイター・ジャパン ViewPoint http://viewpoint.thomsonreutersjapan.jp/

 

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