粋な客は、仲間同士や女の子と会話を楽しむばかりではなく、男性スタッフにも「また来てやったぞ、元気か」と声をかける気遣いを見せる。そこに器量の大きさを感じるというのは、銀座8丁目の高級クラブ「華壇」のママの松山紫音氏だ。
「ご接待のときもいろいろな女の子が自分の席でいいサービスをしてくれたほうが助かるのがわかっている方は、好き嫌いを言わずにどの女の子にも気持ちよく接してくれ、どのスタッフに対しても分け隔てなく声をかけてくださいます。とくに男性スタッフや女の子のことなんかを『マナーがいいね』と褒められるとうれしいですね」
ところでどんな話題が多いのか。自分を落とし、失敗したり、損をした話題は受けるという。紫音ママが語る。
「『昨日、競馬で500万円負けちゃったよ』と嫌みなくさらっと話すお客様がいらしたんで、つい『マンション買えちゃいますよね』って答えたら、馬主さんでした。そのお客さんから、パドックで馬のよし悪しを見分けるコツを教わりましたが、そういう話はほかで勉強できないので面白いですね」
夜の銀座で酒を飲み、楽しく話がはずむのは、元気な証しだ。クラブでも、やはり健康話は盛り上がるという。紫音ママが話を続ける。
「どんなに素晴らしい能力があっても、健康でなければ生かすことができません。お店に来られるトップの方は、とても健康に気を使っています。ゴルフは当然ですが、ウオーキングや体にいい手作りジュースの話などで盛り上がります。肌の色艶もいいし、年齢以上に老け込んでいる方なんていません」
銀座の高級クラブと違い、安サラリーマンが気軽に行けて、いろんな人と気さくに話せるのがスナックだ。スナックはだいたい駅の近くにあって、人生経験豊富なママさんや店の女性が話し相手をしてくれる。東京のJR目黒駅の近くにあるパブスナック「ブラックペッパー」のママの今井一美氏が銀座のクラブとの違いを話す。
「銀座のクラブはお客さんのステータスをくすぐって、お金をいただく世界ですから、水商売といっても私たちとは違います。キャバクラに行くよりも、ちゃんと話を聞いてくれるというので、足を運んでくれるお客さんが多い。女の子が、『ママ、お父さんの苦労がわかったわ。家に帰る前に、こういうところでアホ言って、カラオケ歌って、みんなのために頑張ってきたんだね』ってしみじみ言っていました。明日のために、奥さんや家族に言えないことや運のなかった人生を語って、浮き世の憂さを忘れたいのでしょう。こちらも茶化さずに、真面目に受け止め、ちゃんと話の相手をします」