雑談は厳しい環境の中で生きるには必要不可欠なものだが、現役時代の仕事ぶりによって、コミュニケーション能力に大きな差が生まれる。増田氏が説明する。

「共有するのはもともとがノンキャリア組です。キャリア組は人と交わらないというよりも、交われない。元ビジネスマンでエリートクラスの人は、自分のコミュニケーション能力は高いと思っている。現役時代は、この案件はこの人がキーマンだとか、この人に頼めば人を紹介してもらえるというつながりで生きてきた。でも実際にサポートし、情報をくれる人がいなくなると、プライドが高いだけで何もできない。世の中のことに関心をもち、今でも日本経済新聞を愛読したりしてますが、社会参画する手段はもうない。なおかつ同じような状況なのに、ブルーカラー出のホームレスの人に対して自分のほうが上だという意識があるので、まったくの孤立状態になります」

逆に、ブルーカラー出身の人たちは人当たりはよく、当意即妙な受け答えで人間関係を築ける。ただ、そういう人たちは、自治体などの支援システムの知識が足りないから、雑談から情報を仕入れることが大事になるという。

生き抜くための切実な雑談以外に、どんな話題が多いのだろうか。会社が倒産したり、リストラにあった人は、現役時代のことを懐かしんで話すという。増田氏が語る。

「どれだけ自分がエリートで、大きなビジネスに関わっていたのか、といった自慢話をよくします。会社で、こんなバカな上司がいました。こんな間抜けな部下がいましたっていう笑い話。それに、リストラに関わる話で、いわゆる『追い出し部屋』のこととか、どういう人間がリストラされるのか、といった経験談をしたがります」

増田氏が印象に残ったホームレスの男性がいるという。地方出身の人で、大学は早稲田大学を卒業し、就職は山一証券に入社。倒産したときにメリルリンチ証券に移籍できずに、歩合給の外務員として地場の証券会社を転々としていた。が、手張りの信用取引で失敗して、2000万円の借金を抱えた。さらにサラ金から借り入れ、結局、自宅を手放し妻とは離婚したという。

「ほかの身内を頼れないのかってたずねると、『姉はデュッセルドルフ、叔父、叔母とは何十年も会ってません。そんなところに金の無心などできるわけないでしょ』と言うんです。そもそもホームレスになる人は、それ以前に家族関係は崩壊しています。子どもに対する罪悪感は強いですが、自分を見限って離婚した奥さんには、憎しみを抱いてる人がほとんどです」(増田氏)

ほんの少し前まで普通の生活を送るのが当たり前と思っていたサラリーマンが、会社倒産、リストラによって、路上生活者の落とし穴にはまる危うさは誰にでもある。厳しい環境を生き抜くためにはいかに雑談を生かすか、コミュニケーション能力にかかっているといえよう。

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