ところで、このように長期的なビジョンを持つのは私が創業経営者だからである。誤解を恐れずにいうと、創業者にとって会社とは自分の体である。どこかの部門が不調だということは、自分の体が痛むということだ。
たとえば、精密モーター事業が不調だということは右足が痛いということと同じである。もし会社が自分の体でなければ、痛む足は放っておいて、健康な左足のほうで収益を挙げればよいと考える。すると痛む足のほうに引っ張られて、全体の利益率が悪くなる。結局は会社全体の健康が損なわれるだろう。
しかし会社が自分の体であれば、痛むところはなんとかして治したい。健康な器官はそのままに、痛んだ器官をまず治療するのだ。そうすることで、痛むところ、すなわち赤字事業は一掃される。もし治らなければ、事業を売却することも選択肢の一つ。こうして健康体を保つのが創業経営者の感覚であり役割なのだ。
だから、私はこう考える。
「100年後も成長している会社」の創業経営者は、辞めてはならない。社長から会長、名誉会長と肩書だけは変わるだろう。私自身は代表取締役社長として経営と執行の両面を担っているが、執行の部分を後継者に譲り、経営に専念するときが来ると思う。
だが、自分の「体」である会社に一番の責任を負うのはいつまでも私である。尊敬する京セラの稲盛和夫さんは、すでに取締役を退任しているが、重要な経営判断には必ず関与されているという。
年齢は関係ない。会社に対して、燃えるような情熱があればいいのだ。
1944年、京都府生まれ。63年京都市立洛陽工業高校卒。67年職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)を首席で卒業。ティアック、山科精器取締役を経て、73年日本電産を創業。仏ヴァレオの車載モーター、米エマソンのモーター事業買収などM&Aを積極的に行い、精密小型モーターの開発・製造において、世界No.1の企業に育てあげた。