なぜ、根本から変えるのか。

いま起きている従来型PCからタブレット型への移行が、後戻りのできない不可逆の変化だと見ているからだ。HDDの需要そのものは、クラウド化の進展でデータセンターへの投資が活発化すればある程度は回復するだろう。しかし、HDDを搭載した従来型PCの時代はすでに過ぎ去ったのだ。

だとすれば、精密小型モーター(精密モーターと小型モーターの合算)を柱とする従来の事業構造から、将来性の高い車載用モーターや家電・商業・産業用モーターの比重を高めた、新しい事業構造へ切り替えていくのが自然である。

人は誰しも、自分が従事している仕事には冷静な目を向けにくい。異変や波乱があっても、それは「一時的なもので、やがて平常に戻るだろう」と思い込む。PCに関しては「タブレット型は文章作成、表計算などがやりにくく、本格的なPCの代用にはなりにくい。人気は一時的で、やがて従来型に回帰するだろう」などと考えてしまうのだ。私も当初、その罠に陥っていた。

私自身はどこへ行くにもノート型PCを持ち歩く。毎日数百本、週末なら500本に上るメールに長文の返信をつけたり、書類の決裁を行ったりしなければならず、スマートフォンやタブレット型では十分に処理できないからである。それだけに、タブレット型が無視できないほどに普及するとは思ってもみなかった。

しかしあるとき、いつものように飛行機の座席でPCを開いて驚いた。周囲の乗客の多くがタブレット型を操作していたのだ。時代が変わったのではないか。私はそう直感した。いまは事業構造を変えるときなのだ。

どのようなビジネスも永遠に成長することはなく、いつか必ずピークアウトする。したがって、新しいビジネスが軌道に乗ったら、その瞬間に次の転進先を想定し準備に入るのが望ましい。

日本電産の主力事業であるHDD向け精密モーターは、PC需要の伸びとともに長く成長期が続いてきたが、私自身は00年ごろにピークアウトするのが順当だと予測していた。だから精密モーターが伸び盛りだった1995年の時点で、将来性のある車載用モーター事業へ乗り出したのだ。

以来、日本電産はM&Aを駆使して、車載用や家電・商業・産業用モーターといった隣接部門への進出を加速する。それは精密小型モーターのみに頼る「一本柱」の経営から、その他の事業を含めた「四本柱」へ事業構造を変えていこうと考えたからだ。私の長期戦略はこのころから変わらない。

ただ、変化のタイミングが少し早まったのだ。

従来型PCの時代は予想外に長続きし、途中の予測では10年代まで届くのは確実となった。私なりの読みでは、14年がピークアウトの年となるはずだった。それが実際にはiPadの大ヒットにより、2年ほど前倒しになったというわけである。