「魁より始めよ」の言葉通り、日本電産のトップとして創業から40年、ずっと走り続けてきた永守重信氏。今年度はリーマン・ショック以降2度目となる“危機”もはねのけ、「V字回復」を導いた。永守氏を極限まで駆り立てるものは何なのか。

正直にいえば私の読みが甘かった

危機ほど楽しいものはない――。困難と出合うたびにそう思う。克服することで、会社がますます強くなるからだ。

たとえば2008年のリーマン・ショック。世界経済に大混乱を来し、日本電産も直後には減収減益を余儀なくされた。だが私たちはこの危機に即刻立ち向かい早くも10年度には過去最高益を達成した。製造工程のムダ取りなどの構造改革を徹底し、会社の体質改善を進めたからだ。

永守重信氏

わずか2年後、12年にも想定外の事態が訪れた。タブレット型PCの大流行にともなう、従来型PCの販売不振である。日本電産はPCの心臓部であるHDD向け精密モーターの最大手。ところがiPadのようなタブレット型にはHDDが組み込まれていない。この影響で精密モーターの世界需要は急減し、日本電産の業績にもブレーキがかかったのだ。

正直にいえば、私の読みが甘かった。いくらタブレット型が人気でも、精密モーターの販売に深刻な影響が出るまでは2年ほど余裕があると見ていたが、実際の変化は私の読みよりも早かった。その点は謙虚に反省しなければならない。だが、新たな危機に見舞われたおかげで、日本電産は一層の体質強化を実現できたのだ。これは危機の効用といってよいだろう。

日本電産の13年度決算は売上高、営業利益ともに急伸し、一時的な落ち込みからV字回復を遂げる見通しだ。四半期ベースではすでに売上高2100億円超と過去最高を記録し、営業利益も当初予想を大幅に上回っている(4~6月期)。12年度末から取り組んだ新規の構造改革が効果を挙げているのである。

リーマン後の改革とは異なり、今回は1000億円超という豊富な営業キャッシュフローをバックに、不要設備の減損処理やラインの新設などを断行した。これにより、事業構造を根本から変えようという考えだ。