デフレ脱却の一丁目一番地は「賃上げ」
【塩田】自民党税調は「インナー」と呼ばれる税の専門家の政治家がメンバーを構成し、大きな力を持っていると言われていますが、一般の国民からは、見えない部分が多いと思います。会長として、党税調は今の時代、どういう役割を担うべきだとお考えですか。
【野田】議院内閣制ですから、政府・与党が一体でやるわけです。政府だけではできません。与党が責任を持って党内を取りまとめ、ちゃんと収まって、初めて閣議決定ができる。税制改正はどこに税金をお願いするかという歳入の確保が最大の使命ですが、同時に、経済政策との兼ね合いで、政策税制や成長戦略、活力を引っ張り出すような税の仕組みもある。少子化が進む中で、海外との競争にどうやって打ち勝っていくか。設備投資や研究開発など、新しい分野でイノベーションを広げる。経済政策的な配慮も必要です。
今回は賃上げがデフレ脱却の好循環に持っていく一番の戦略的なやり方と見て、これに取り組んでいます。企業には命令ができないので、企業が自主的に賃上げにという形に持っていく。賃上げをやったほうが会社にとってもプラスだというインセンティブをどうやって生み出すか。世界でもやったことがない「賃上げ促進税制」と私は言っています。
【塩田】基準年度の2012年度と比べて、企業が給与総額を増やした場合、増えた額の10%を法人税から控除する仕組みですね。大企業は15年度3%増、16年度と17年度5%増が条件となっていますが、中小企業は15~17年度の3年間、2012年比で3%以上のアップを維持すれば減税されるとのことです。
【野田】デフレ脱却の好循環を生み出す一丁目一番地は何かというと、賃上げです。この認識はみんな一緒です。それは企業がやるしかないけど、そうさせるにはどうすればいいか。アベノミクス金融政策だけではない。税制面でも懸命にやっているつもりです。税額が控除になるので、必ず生きてくる。去年4月に消費税が8%になりましたが、消費税が上がった分、賃金が上がればとんとんです。実質所得がカバーできるようにしなければという思いもあってやっている。見ていて下さい。必ず効果が出てきます。
税調として先に発案して出した。経済産業省からの要求ではなかったから、経産省はこの案を宣伝しない。総理には「世界でやったことない案。政・労・使にただ賃上げをお願いしているだけではない」と申し上げた。「『アベノタックス』と呼んで、世界に宣伝すればよい」と申し上げた。
法人税減税だけでなく、設備投資や研究開発、省エネも基本的に政策税制です。税調の仕事は経済政策的にどうするかを考える。政策を進める上で各省が抱える課題があり、中には利害が対立することもありますが、全部をまとめないと動かない。それをやるのがわれわれの仕事です。民主党政権のときはできなかった。だから、決まらなかった。われわれは、政府で閣議決定する前に党税調で全部の話を聞き、最後の落とし所を見つけて、最後はみんなが賛成というところに持っていく。そこで大綱が決まる。
【塩田】民主党政権は税の部分でなぜうまくいかなかったと思いましたか。
【野田】人がいなかった。これはやむを得ない。野党暮らしが多かったから。党税調の中でまとめ切る人はほとんどいなかった。経験不足です。それに野党は取りまとめる責任がない。決定するには、泥、つまり責任を被る。リスクを全部負う。決定責任が違います。