消費税は構造的な問題とは違う

【塩田】増税関連法には「景気条項」があり、安倍首相は税率引き上げの延期を決めることができたのに、わざわざ解散・総選挙を行いました。

【野田】昔と違って、世の中は増税に対する理解が進んでいると私は確信を持っていましたが、総理の周辺はそこまで確信がなかったのではないかな。嫌がられることはしたくないということでしょう。

もう一つ、経済政策的な考え方の違いもあります。総理の周辺には、消費税率の引き上げが結果としてデフレの状況をつくってきたと唱える人たちがいっぱいいます。私はそうは思わない。消費税は循環論的な話で、構造的な問題とは違う。確かに駆け込み需要とその反動は、税率引き上げの前後は必ずありますが、本質的な話ではなくて、循環論の世界の話ですから、第3四半期か1年が過ぎれば、消費は完全に回復する。現に今もそうでしょう。第2四半期で回復しないからといって大騒ぎするのはちょっと違うのではないか。そもそもそれは消費税の話ではなく、人口構造など、もっと構造的な問題があり、質が違うと思う。なのに、消費税のせいにして、成長戦略の邪魔になると言うのは、話が逆です。私は逆に消費税率を上げ、その上で歳出面で必要な手当てをカバーすれば、両方相まって成長戦略にプラスになると思っています。このへんの戦略の違いがあるわけです。

社会保障の財源をどうするか。この安定感が出ないと、成長戦略は成り立たない。われわれはこれから高齢化、少子化がどんどん進んでいく中で、社会保障の財源としての消費税を考えた。野田佳彦内閣時代の3党合意の背景はそこにある。高齢化は待ってくれない。今の危機的な財政状況を考えれば待てないという思いは今も変わりません。

【塩田】去年の4~6月期と7~9月期の成長率が落ち込んだのは、去年4月の8%への消費税率引き上げの影響も大きかったのでは。

【野田】それは無関係ではないと思いますが、円安と原油高が非常に大きく響きました。

【塩田】税率10%への引き上げは2017年4月からですが、改正法には「景気条項」を付けませんでした。法律上は実施時期は動かせないことになりましたが、実際には半年前の来年の秋から暮れに、実施についてもう一度、首相の政治判断が必要です。つまり、引き上げの再延期は絶対にできないわけではなくて、法律を変えれば可能です。

【野田】論理からいえば、憲法以外はなんでもできます。だけど、それをやったら、いろいろな意味で危機状況になる。余程の天変地異がない限り、再延期はない。私は心配していません。昨年の総選挙で、安倍首相は「この道しかない」と言ったじゃないですか。そのときの約束の一つに入っています。

【塩田】一つ気になるのは、安倍首相が意欲を燃やす憲法改正との関係です。来夏の参院選後の国会で改憲の発議を行い、続けて国民投票を実施するというスケジュールを想定している気配があります。だとすると、17年4月の税率10%実施を判断する時期と国会での改憲案発議が重なり、税率引き上げと国民投票の時期が重なる可能性もあります。そのとき、政治は大激動となるかもしれません。安倍首相は宿願の改憲実現のために消費税率引き上げを再延期するのではないかという予想も出てきます。

【野田】それはちょっと次元が違うのではないですか。