テルモが販売提携先になった理由

06年から片野はコンテナ水槽を作り、何トンもの海洋深層水を購入してエビを育て始めた。社員はあきれて見ていたが、片野は毎夜、かわいいエビを見つめながら餌やりを続けた。だが、排泄物や餌の残滓などがアンモニアに変わり、悪臭を放ち始めた。1カ月ごとに水槽の半分の水を替えなければならず、資金がかかった。

何とか水を浄化する装置を作れないものかと、専門家を訪ね歩き、装置を開発した。また、水中の酸素濃度を高めてエビの成長を促進しようと、ナノバブル発生装置を導入した。すると、ナノバブルによって発生したイオンが水中の臭いを消し、雑菌を分解した。

片野はイオンの威力に驚き、エビ養殖から脱臭・除菌に関心が移った。市販されている脱臭除菌機をすべて買ってきて、効果を試し、分解した。そして、小型のコロナ放電タイプ脱臭機を自ら開発することを決断し、MRD方式の開発に至った。

手作りで試作機を100台ほど作り、社員や知り合いに配ると、その効果が評判となり、片野は事業化に踏み切ることにした。

だが、販路を開拓するのは難しい。販売を担ってくれる提携先を訪ね歩いたが、効果を試そうともせず門前払いだった。

「大きな会社ほどおごりがあり、傲慢な対応をされるか、『他で売れてから来てください』と言われました。つくづく嫌になりましたが、それでも50~60社ほど回った中で、テルモだけはちゃんと試験をして効果を認めてくれたのです。テルモの担当者は『他社が扱っているような商品なら、うちでは扱いません』と言ってくれました」

こうして、2011年末からテルモを通して売り出されることになり、現在は日立マクセルグローバル社と共に世界に向けた事業戦略を計画中だ。

「私は相手が大手企業だろうと、頭を下げることはありません。対等の関係で、提案をしているのであって、大手側も勘違いしてはいけないし、中小企業も卑屈になる必要はない。私はどんな企業と提携しようと、パートナーとして一緒に事業を進めるようにしています」

日本の大手企業が革新的なものづくりの力を失いつつある中、こうした実力ある中小企業との対等な提携が増えなければ、ますます大手の世界的競争力は低下するだろう。(文中敬称略)

株式会社片野工業
●代表者:片野明夫
●創設:1990年
●業種:コンテナ修理・改造・販売、輸出梱包業務、除菌脱臭機製造販売など
●従業員:60名
●年商:8億8000万円(2014年度)
●本社:神奈川県横浜市
●ホームページ:http://www.katano.co.jp/
(日本実業出版社=写真提供)
関連記事
オリンパス、テルモ乱入で支援先決まらず財務悪化
「14期連続増収、人切りなし」テルモ快走の秘密
老舗企業が生き残りをかけて挑む、繊維産業の非常識
大都会で「ハイカラ野菜」を栽培する「LED野菜工場」の実力
技術力を判定! ITエンジニアの転職を支援