独自に開発したコロナ放電技術
筆者が片野工業を訪れたとき、片野は1つの実験を見せてくれた。16センチ四方で高さ5センチのエアーサクセスプロを半透明の箱に入れ、タバコの煙を充満させた後、スイッチを入れるとたちまち煙が消えていき、タバコの臭いもなくなった。
脱臭の原理は、片野が独自に開発した「多重リング式コロナ放電技術(MRD)」によって発生するイオン風の中に含まれる高濃度イオンと低濃度オゾンが、臭い物質やカビ・雑菌・ウイルスに吸着して、ラジカル反応を起こして分解あるいは不活化する。ラジカル反応とは分子が他の分子から連鎖的に電子を引き抜く現象である。
かつて、「マイナスイオン」など曖昧な定義で疑似科学と問題視されたこともあったが、MRDはコロナ放電というれっきとしたイオン生成の現象を利用しており、しかも従来型のコロナ放電より約3倍のイオン風を発生させるという。
一般財団法人日本食品分析センターが行ったエアーサクセスプロの脱臭効果試験によると、アンモニアは作動後2時間で半減、魚臭に似たトリメチルアミンは3分の1以下に減少。インフルエンザウイルスは24時間後に約3分の1になり、大腸菌や黄色ブドウ球菌、アオカビは24時間後に検出できないほどの量に減った。
コロナ放電は尖った針電極に高電圧がかかると起こるが、発生するイオン風は弱く、部屋中に拡散できなかった。片野は、試行錯誤を繰り返した結果、ステンレス板に同心円状のリングを複数配置した独自の電極形状を開発した。このリング電極の中心から外側に向かってコロナ放電が連鎖的に起こることで、大量のイオン風を作り出すことに成功した。エアーサクセスプロではリング電極が4つ並んでいる。
片野は2009年から約1年をかけて開発し、10年には国内特許を取得した。続いて韓国、アメリカ、中国、インドネシア、タイでも特許を取得、権利化された。現在、EU、インド、ベトナムも登録査定を待っている。また、13年には特許協力条約に基づくPCT国際出願も果たした。
その性能は大手医療機器メーカーのテルモが認め、代理店として販売を担っている。実勢価格は2万円前後で、現在までに販売台数は4万台を超えた。一般の病院や動物病院、ペットを飼っている家庭などで好評だという。ペットの糞の臭いもたちまち消える。