専門性習得の奨励は、90年代半ばの当初は「目指せ1000万円プレーヤー」の標語を掲げて全社的に推進してきた経緯もある。会社を辞めても1000万円は稼げる専門性を身につけよという目標だ。育成を柱とする職能主義は人事評価制度にも貫かれている。もちろん業績評価も重要であるが、業績評価結果はボーナスに反映され、一方、職能評価は月給と昇進・昇格に反映されるなど、より重視されている。
ユニークなのはその評価項目だ。基幹職の評価項目は大きく「課題創造力」「課題遂行力」「組織マネジメント力」「人材活用力」「人望」の5つ。その下にそれぞれ評価要素があり、計10項目。1項目が100点、1000点満点となる。創造力、遂行力など業務に関する能力が合計500点であるのに対し、人材育成を含むマネジメントに関する部分が半分の合計500点を占めるなど、育成を重視していることが明瞭だ。それにしても「人望」を評価の視点に据えるのは極めて珍しい。
宮崎元専務は「どれだけ部下をその気にさせて、目指すべき方向に引っ張っていけるのか。あの人と一緒に仕事をしたい、あの人の下で働きたいと思わせるもの」と解説する。日本人にはそのニュアンスはわかるが、トヨタの恐ろしいところは「人望」をグローバル統一の基準にしていることだ。
それだけではない。日本以外には馴染みが薄い職能主義人事制度を世界標準の仕組みにつくり上げていることだ。
「トヨタに入った以上、外国人であっても将来はその地域の幹部として活躍してほしい。会社としてはやはり人を大事にしたいし、人を大切にする会社として皆にがんばってもらいたい。そういう思いが強い会社なのです」
欧米流の職務主義を取り入れる日本企業が増えるなかで、トヨタはあくまで日本発の人事制度にこだわり続ける。