5. 現場は見ない
……客の意見は「宝くじ」
商品が売れないときに現場の意見を参考にするのは、得策ではない。伸び悩んでいるときほど、現場は目先の売り上げを欲しがって、「もっと値下げしたほうがいい」「広告を増やすべき」と即効性のある解決策を求めてくる。そうした施策で売り上げが回復しても、一時的なものに過ぎない。多くの場合、売り上げ不振の原因はもっと本質的なところに潜んでいる。根底から戦略を見直さなくてはいけないときに、現場の声はかえって邪魔になる。
フランスのイブ・サンローラン化粧品部門の日本法人社長をやっていたときの話だ。化粧品にはメークアップとスキンケアの2種類がある。売り上げを安定させるにはスキンケアの比重を高めたほうがいいが、現場の販売部員からは「イブ・サンローランはメークアップブランドのイメージが強く、スキンケアは売れない」、という声しか上がってこなかった。直近の売り上げを伸ばすには、たしかにメークアップ商品を売ったほうがいい。しかし、それでは安定的な成長は見込めない。結局私は現場の声を無視することにした。
マーケティングスタッフと議論を重ねた結果、導入したのが「スキンケア・アナライザー」だった。これはいくつかの質問に答えると、肌診断の結果とそれに合った商品を提案してくれるマシンだ。ゲーム感覚で自分に合った商品を選べることがうけて、1年後には売り上げシェアが10%伸びていた。このアイデアは、現場の声を聞いていたら絶対に浮かばなかっただろう。
参考にしないほうがいいのは、現場スタッフの声だけではない。じつはお客の声もあてにできない。たとえば新商品についてフォーカスグループにインタビューを行っても、聞こえてくるのは「もっと安くしてほしい」といった月並みな意見ばかりだ。「00の機能が欲しい」など、もう少し突っ込んだ声を拾えることもあるが、消費者が自分で意識しているレベルのニーズは他社も容易に把握できるため、差別化にはつながりにくい。
もちろん現場のスタッフやお客から素晴らしい意見が上がってくるケースはゼロではない。しかし、それらは宝くじに期待するようなもの。現場に頼らず、自分で考える習慣を身につけておくべきだ。