いまどきの顧客は、マーケティング担当者が考えているよりもずっと洗練されている。凝った広告や派手な宣伝には見向きもしない「彼ら」を振り向かせる方法はないのか。

広告やデータは道具にすぎない

ガートナー・グループの調査によると、企業が昨年、顧客管理(CRM)関連のソフトに支払った額は220億ドルにのぼった。このお金は有効に使われたのだろうか。企業は高利益をもたらす顧客に的を絞り切れずにおり、相変わらず複雑極まりないデータマイニングや販売手法に頼っている。

そう、欲しくもない商品とサービス、歯が浮くような言葉、尊大な態度、守られない約束に、顧客はうんざりしているのだ。彼らを再び活気づかせる特効薬はないのだろうか。

広告会社、ヤング・アンド・ルビカムのデジタル部門のトップであるクリス・グッドマンはこう言っている。

「顧客を飽きさせている原因は、企業の惰性である。販促シナリオ、競争原理、潜在的な顧客の好みと需要に対する企業の無頓着が問題だ」

売り手は、顧客ともう1度、真剣に向き合わなければならないが、「広告や宣伝に頼ってはならない。そういったキャンペーンによって顧客の信頼が失われている」と警告するのは、カリフォルニアにあるコンサルタント会社、ソシアテ社長のジェリー・ミカルスキだ。企業は、自分たちが伝えたいメッセージを一方的に顧客に伝えるという宣伝心理を捨てて、顧客が企業に何を求めているかを見極めることに、もっと時間を割くべきなのだ。

顧客に近づく第1歩は、彼らについて、考え方を改めることから始める。そして、顧客の商品やサービスに対するニーズと、顧客が求める“体験”の結びつき方を把握できるように、従業員を配置し直すのだ。たとえば、「私だけが持っている」ことが購入の動機であるならば、顧客を追い回し、しつこく売ろうとせずに、むしろ、顧客のほうから売ってくれとせがむように仕向けるほうが、顧客満足度はかえって高まるだろう。だが、顧客の動機を理解して販売方法を微調整するだけでは十分ではない。これまで以上に顧客の信頼を勝ち得ること、そして顧客の飽きを根絶する最良の方法は、真に価値あるものを提供するという約束を守ることにつきる。

「企業は人と話す術(すべ)を忘れてしまった」とミカルスキは言う。産業革命以降、供給ルートが発達するにつれて、売り手は自社製品のエンドユーザーと接触する機会を失ってしまった。ミカルスキは言う。

「メディア革命によって、また売り手と買い手は引き離された。両者がコンピュータを通じたやりとりに頼らざるをえなかったためである」