顧客は何に迷っているか→部署ごとの「ボトルネック」を探る
「社内で調整したい」といわれたまま、数カ月経っても一向に話が進まない。ジリジリした展開である。相手は何に迷っているのだろうか。
効果的な質問を投げかけ、反応を見ることで、その理由は推測できると小暮氏はいう。実力部署を探すのも基本は同じ。次のような流れである。
「まずマッキンゼーでよく使うロジックツリーを書き出し、相手側の部署がCSR部、総務部、人事部とあるとしたら、それぞれの部署ごとに、どんなボトルネックが存在するかを調べます。TFTの魅力をご説明していくなかで、相手がどの点に反応するかに着目します。医者が聴診器をあてて病気を診断するようなつもりで、慎重にお話を聞くのです。そうすれば、何かしらヒントになることがつかめます」
たとえば「この人はとりわけ、このポイントに魅力を感じてくれるのか」「この人はこういうミッションで仕事をしていて、部署の存在意義はそこなのか」などという発見を書き留めていく。それによって、何が意思決定を阻害しているのかも見えてくる。
「具体的には、それぞれの相手に合わせたロジックで提案するということです。たとえば総務部の人には、運営にあまり手間がかからないという事実をお話しします。福利厚生を管掌する人事部の人には、このプログラムで実際にこれだけ痩せた人がいます、という効果をお伝えします」
こうした「部署固有」の課題だけではなく、次のような「会社固有」の課題が隠れている場合もあるという。
たとえば、たまたま社員食堂の運営会社の切り替えを検討中だったとか、労働組合の力が強いため、従業員の負担増加につながると誤解されかねない提案については、会社側が慎重になっている、といったケースだ。
一方、高島氏のセオリーは、正面から問いかけて答えを引き出すことだ。
「決めるための基準は何ですか?」
「ほかにどういう選択肢がありますか?」
中途採用の候補者にアプローチするとき、いちばん重要なのは「相手のフェーズ」であるという。たとえば「ずっと誘っていたのに全然興味を示してくれなかった人が、会社のなかで異動があったのをきっかけに、急に前向きになったりする」(高島氏)。
好機を見逃さないためには、相手が何に迷っているかを把握しておくことだ。ここでも高島氏は、ずばりと聞く。
「この件で相談する方はいますか?」
もし「妻に相談しないと……」という答えが返ってきたら、夫人の意向が決断のカギだということになる。
「うちの場合、その週末には奥さんに野菜を送りますよ(笑)」と高島氏。オイシックス自慢の有機野菜を受け取れば、夫人の態度は柔らかくなるに決まっている。
津田塾大学卒業後、仏の欧州経営大学院(INSEAD)にてMSIB修了。1987年BCG入社。日本コカ・コーラなどを経て、ウィンザーホテル洞爺などの再生に参画。2006年より現職。
NPO法人 TABLE FOR TWO インターナショナル 代表理事 小暮 真久(こぐれ・まさひさ)
1972年生まれ。早稲田大学卒業後、豪スインバン工科大で修士号取得。99年マッキンゼー入社。松竹を経て2007年より現職。著書は『「20円」で世界をつなぐ仕事』ほか。
オイシックス社長 高島 宏平(たかしま・こうへい)
1973年生まれ。東京大学大学院修了後、マッキンゼー入社。2000年オイシックス設立。07年企業家ネットワーク主催「企業家賞」受賞。著書は『ライフ・イズ・ベジタブル』。