今回、投票率が低かったため、自民党の議席数は予想ほど伸びず、公明党への依存度が上がった。このため自民党は次の参議院選挙において投票率を高くすることへのモティベーションを得た。これは、公明党が希望しない2016年の衆参同時選挙へのインセンティブが高まったということでもある。次の参議院選挙で、自民党が単独で参議院過半数をとれるならば、公明党とアライアンスをするメリットは減る。むしろ、衆参両方で3分の2を目指すのであれば、海江田氏の力が弱まった民主党とのアライアンスが合理的である。
しかし、民主党とのアライアンスはより大きな政党とのアライアンスとなるので、自民党の連立政権内でのパワーは減少せざるを得ないし、自民党内の統制すら容易でない(今回の解散総選挙は党内の反安倍政権派を統制する効果を狙ったとの報道もある)。安倍政権にとっては大きなギャンブルとなるだろう。
現実的には、衆参同時選挙や民主党との提携をBATNA(最も望ましい代替案)としてちらつかせながら、公明党とぎりぎりの交渉(たとえば改憲要件の緩和だけを求める改憲発議といった妥協策)を続けていくのではないだろうか。(※2)
安倍政権や各党の幹部がどのような原理で行動しているかは、うかがい知れない。ただ、戦略論に基づいてビジネス同様に合理的な分析で意思決定していると考えると、一見不合理に見える政治過程も、全く違う見方ができるのである。
※1:2012年、民主党執行部は消費増税法案をめぐって、「経済状況を好転させることを条件として実施する」という条件を付則18条に加えた。
※2:BATNA(バトナ)とは、「Best Alternative to Negotiated Agreement」の略。交渉に合意することに次ぐ最善の選択肢、という意味。詳しくは『武器としての交渉思考』(星海社新書)を参照。
東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科助手を経て、マッキンゼー&カンパニーへ。主にエレクトロニクス業界のコンサルティングに従事する。3年の勤務を経て投資家として独立。著書に『僕は君たちに武器を配りたい』『君に友だちはいらない』などがある。