これまで東京や名古屋などへ出かけることはあったが、11月29日には島根県松江市で開かれたシンポジウム「死刑を考える日――袴田再審事件を通して――」(島根県弁護士会主催)に招かれた。約50年ぶりとなる飛行機に羽田空港から搭乗した袴田さんは、黒のスーツに蝶ネクタイ姿。
「島根県まで行くんだから蝶ネクタイくらい締めなければと思い、前日にデパートで買ったけど、黒ずくめになってしまった。飛行機に乗れるということは、自由な体で生きられるということなんだな。健康そのもので元気いっぱいで頑張っております」(袴田さん)
まだ拘禁症の影響が残り意思の疎通が図れない部分もあるが、150人の聴衆を前にした袴田さんは「私が袴田巖でございます」と、しっかりとあいさつをした。松江城の天守閣から街並みを見下ろすと、「これから街がどう発展していくのか。幸せな人間社会が保障されなければいけない。人間がまじめにやれば、文明が開けていく。今後どうなっていくのかが問題だ」と持論を展開した袴田さん。翌日は出雲大社を訪れ、大きな注連縄の下で拍手を打ち、頭を垂れていた。
再審開始決定は出たが、静岡地検が決定を不服として即時抗告をしているため再審開始のめどは立っていない。
「まだ厳しい道のりですが、私たちは全身全霊で闘い抜いていきます」
1日も早い無罪判決を待ち望む姉・秀子さんは、こう決意を語った。