巖さんの病状に明るい兆し
2014年3月に再審が認められ、約48年ぶりに釈放された無実の死刑囚・袴田巖さん(78歳)。自由を奪われた状態が続き、精神が不安定になる拘禁症や糖尿病などの影響で3カ月間入院。7月初めに退院し、今は姉の秀子さん(81歳)の自宅で暮らしている。だが、ほとんど外出することはなかった。
8月末には自宅で倒れ緊急入院、周囲を慌てさせた。高熱から肺炎を起こし、さらに胆石の除去手術と心臓カテーテル手術を受け、1カ月の入院を余儀なくされた。しかし順調に回復、退院後はそれまでとは見違えるように意欲的になった。秀子さんが言う。
「毎日のように買い物や散歩に出かけています。集会にも進んで参加するようになり、行動範囲が広がりました。きっと退院後、体調がとてもよくなったのでしょう。随分と話すようにもなりました。10月には2泊3日で東京の集会に出席し、上野動物園や東京タワーの見学もしました」
旧友との再会もあった。1963(昭和38)年、埼玉県狭山市で女子高生が殺害された狭山事件で無期懲役とされ服役、仮釈放後も冤罪を強く訴えている石川一雄さん(75歳)である。石川さんは一審で死刑の判決を受け東京拘置所に幽閉されたが、3つ隣の房にいたのが巖さんだった。10月26日、石川さんが自宅を訪ねると、「石川さんかい、いらっしゃい」と、巖さんは玄関先で出迎えた。
「拘置所の運動場などでよく一緒になったのですが、お互いに無実の死刑囚ということで励まし合ったものです。私が二審で無期懲役となるまで、6年間交流が続きました。当時、塀の外でこうしてイワちゃん(巖さん)と会えるとは思っていなかったので、感無量です」(石川さん)
11月15日には、東京で行われた日弁連主催のシンポジウム「死刑廃止を考える日」に参加した。渋谷のスクランブル交差点ではあまりの人の多さに目を丸くした袴田さんだが、壇上からこう強い口調で訴えた。
「国家が人を殺す死刑制度は、何があっても許されることではない。あってはならないことだ。私はこれからも正しい道を生き、闘っていきたい」
常に処刑の恐怖と隣り合わせだった怒りの言葉に、参加者は深く考えさせられたようだった。