色と型では大違い

『袴田事件』山本徹美著(プレジデント社)

5点の衣類のうち、ズボンは、

「寸法4 型B」

と実況見分調書にあり、公判では、「B4」の規格寸法であれば、

「被告人は、本件発生時には本件ズボンを優にはけたものと認められる」

と証拠認定された。

ところが、2010年9月に静岡地裁と検察、弁護の三者協議で証拠開示があり、新事実が発露した。当時の警察官はズボンを縫製したメーカーを調査し、ほかのズボンのタグを押収してきていた。それには、

「寸法Y5 色C」

と、あった。すなわち、このメーカーでは、タグの上段に寸法、下段に色を表記するスタイルをとっていたのである。その警察官による製造業者の供述調書もあり、それに従うと、5点の衣類のズボンは、

「寸法Y4 色B」

との表示であったと類推できた。が、それは隠蔽された。

手違いで見落とされていました、では済まされない。裏付捜査までしていて、その誤記・誤認を訂正しようとしなかったのである。そのため公判ではこのズボンをはけたかどうか、で何回も実験と論争が繰り返された。

新証拠を選別するにあたって、新規に担当となった検察官は、型ではなく色なのかどうか、再度、メーカーに確認したという。そのうえで、この新証拠が開示された。そのあたり検察にも従来とはちがう動きがみられる。

いみじくも安倍治夫弁護士はその著書(前回掲載)で、

「司法の権威とはいたずらに過去の過ちに固執拘泥することによって維持されるものでもなければ、また裁判所は、過ちをしない旨を偽善的に誇示することによって高められるものでもない」

との訓告を発している。

静岡地裁の村山浩昭裁判長は、

「弁護人が提出した新証拠により、鉄紺色ズボンのサイズは、確定判決等の認定と異なり、細身用の『Y体』であったことが明らかになった。袴田のウエストサイズと適合していなかった可能性があり、ズボンが袴田のものではなかったとの疑いに整合する」

と認定した。