再審の扉を開かせたもの
静岡地裁村山裁判長は、DNA鑑定結果について、
「5点の衣類の血痕は、袴田のものでも、被害者4人のものでもない可能性が相当程度認められる。白半袖シャツ右肩の血痕は袴田のものではない蓋然性が高まった。5点の衣類には、被害者4名の血液以外の血液が付着している可能性がある程度認められる。検査方法としては、弁護側鑑定の方がより信頼性の高い方法を用いているから、検察側鑑定の結果によって弁護側鑑定の結果の信用性が失われることはない」
と裁定したのである。
弁護側の鑑定人は、本田克也教授(筑波大学・同大学院法医学)が担当した。本田教授は足利事件のDNA鑑定を担当、09年に再審が開始され、10年3月、無罪となった。
こうしたDNA鑑定の進歩が、再審への扉を開くひとつの要因となっている。
10年9月には大阪地検特捜部主任検事による証拠改竄事件が発生。その上司も逮捕され、検事総長が辞職に追い込まれる事態にまで発展した。
検察の権威が失墜しつつある状況で、検察内部で過去への反省と再建に向けての組織改革がなされたとしても不思議ではない。従前の袴田事件担当検事が人事異動となったのも偶然ではないと思える。
今回、再審への決め手となる新証拠も、検察が開示しなければ難しい部分があった。検察の決断は評価できるが、本来かくあるべし。一部の静岡県警捜査官にも良識はあった。黒革財布の一件(拙著参照)などその現れであると私はみている。
袴田事件に限らず、冤罪の鍵を握っているのは司法である。
裁判員制度が導入された現在、私たち有権者も立件された犯罪がはたして事実なのかどうか、冤罪も意識し、見極める責任がある。
袴田さんの無罪はまだ確定したわけではない。即刻の再審開始を冀(こいねが)っている。