【「修羅場は人生の教科書」
仕事の棚卸しで一歩踏み出す:検証ルポ40代】
■レールに乗って仕事をするのは嫌だ
「岩本、おまえ、何のために仕事をしてるんだ?」
岩本修司はリクルートの社員としてニューヨークに駐在していたころ、親交のあった現地在住のイラストレーターからこう問われ、返事に窮したことを鮮明に覚えている。いくらか酒の入っていたイラストレーター氏に問い返すと、年長の相手は当然のごとく「俺は自分で納得のできる絵を描きたい。いまの仕事は天職だ」と言い切った。
このとき岩本は30歳を目前にしていた。
「僕はリクルートでは財務の仕事をしていて、先輩から『財務は企業にとって扇の要だ』と言われ、迷わずそう考えていたのですが、改めて『おまえ個人の目的は何なのか?』と問われると、ひるむところがありました」
30歳をきっかけに、歩む道を変えようかと思いつめた。そして自分には何ができるのか、何をしたいのかを冷静に考えるようになった。人材会社と接触したこともある。だが、30歳での転身は実現しなかった。「俺たち財務マンは芸術家と一緒だよ。毎日毎日、数字で作品をつくっているじゃないか」と熱く語る上司がいたからだ。
「こういう人がいる会社なんだ。もう少しリクルートで頑張ってみよう」と岩本は心に決めた。そもそも、一橋大学の卒業を前に「周囲は当然のように銀行や商社や保険会社へ行くけれど、いったい、そんな出来合いのレールに乗って仕事をするのが楽しいのか?」という根源的な疑問を抱いていたところへ、「おもしろい人がいっぱいいる」リクルートと出合い、嬉々として入社したといういきさつがある。自由闊達で、個を生かす社風のリクルートを岩本は愛していたのだ。