腹決めをすることで本物のプロに変身
この40代になると、本当のプロと偽物のプロとの間で、能力面でも処遇面でも格差が広がっていく。私がいうプロの定義はシンプルだ。ある専門領域で一人前の実力を発揮し、なおかつ、「自分はこの分野のプロなんだ」という強烈な自負を持っていることだ。他人から認められ、自分も信念を持ってその道を突き進んでいる。その両方があって初めてプロといえる。
逆に、周囲から「一流の営業マンだ」と認められているのに、当人は「イマイチ自信がない」と浮かぬ顔をしているタイプもいる。もっと自分にふさわしい仕事を誰かが与えてくれるのではないか、ヘッドハンティングの電話がかかってきやしないかなど、あらぬ空想を抱いているのだ。他人に決めてもらわなければ動けない他律的キャリアの人は、意外と多くいる。こういう人に対するアドバイスは「腹決めせよ」。これに尽きる。
社会人になって20数年の間、営業と財務の仕事を経験してきたAさんがいたとする。これから先、何を自分の専門とするかをAさんは熟考した。その会社にいる限り、営業か財務のどちらか一方を選ばざるをえない。そしてAさんが選んだのは財務だった。営業志望で会社に入り、異動で担当させられた財務の仕事だったが、「奥深くて面白いし、会社にとってもきわめて重要な仕事だ」と腹決めしたのだ。
そして、この腹決めがサインとなって、Aさんは山登りモードに突入する。「財務でいく」と決めた途端、自分には何が足りなくて、それを埋めるにはどうしたらいいのか、明確な目標が立ち現れる。財務で一流とはどんな人材なのか、どんな本を読めばいいのか、他社の財務はどんな人たちなんだろうと、いろいろなことを考え始める。こうしたことは、人事異動でたまたま財務になったときは考えない。「この道をいく」と、腹決めをしたからこそ、次々と頭に浮かんでくるのだ。
そうやって腹決めすると、俄然、勉強も面白くなっていく。それにつれて能力もどんどん伸張していく。山の裾野から中腹にかけて、急勾配を這い上がるような成長曲線を描くようになるのだ。40代前半にこの成長曲線を描けるか、これはその後の職業生活を決める大きなメルクマールになるだろう。
そんな遠回りなどせず、入社してすぐに財務の仕事を選び、それを極めようと努力すればいい、と言う人がいるかもしれない。でも、そうは問屋が卸さない。大切なことは、筏下りの過程でAさんが、一度は憧れだった営業も経験しているという事実なのである。
入社時点で財務の仕事で腹決めをし、一生懸命に山登りをしてきたつもりでいたとする。しかし、5年経ったときに、自分には合わない仕事だったと気がつく可能性もあるのだ。すると、その後は別の山に登り直すことになる。つまり、筏下りを経験せず、最初に腹決めしてしまうと、その仕事が本当に自分に合っている場合を除き、中途半端に低い山を登ってしまうリスクが生じてしまうのだ。
なお、真のプロになるとコミュニティが変わる。入社してから30代くらいまでは、会社がコミュニティの中心だが、この世界でやっていくと腹決めした途端、もう1つのコミュニティができる。同業者のコミュニティである。同じ領域の専門家ネットワークに仲間入りし、プロ同士が互いに切磋琢磨し合う。こういうコミュニティを持てるかどうかも、40代以降のキャリアに大きな影響を与える。