なぜ「事実が先、主観はあと」なのか。
「報告するとき、最初に自分の主観と作文から入る人がいますよね。クレームを受けた背景みたいなことをだらだらと述べて、『私は反対だったのですが、A君がこういうふうに対応してしまったので……』などと言い訳を始める。それでは報告になりません。まず事実。そのあと『で、君はどうしたらいいと思う?』と対話をするなかで、解決策を探っていくのです」
注意しなければいけないのは、「報告する」と「対策を練る」がセットになっているということだ。
「『上程案が3つあります。そこから選んでください。あとは私の責任ではありません』。そういう姿勢では困ります。上司と部下との間に、双方向のコミュニケーションが成立していなければいけません」(井上さん)
もっとも、日常的なクレーム案件については定型化が進んでいる。
「事実、原因、再発防止策、お客様の声、トラブルは収まっているのか、収まっていなければ、どういう手段でいつまでに収束させるのか」
ネクストの社員は、この順番で漏れなく報告を上げることになっている。あくまでも事実ベースであり、淡々としたものである。次のような事情があるからだ。
「若い担当者が『たいしたことないですよ』と軽んじるようなことでも、経験豊富な上位者が見ると『このままでは大変な事態になる!』と青くなるような場合があるのです。だから担当者の主観だけではなく、別の見方もきちんと調査したうえで、妥当な判断をしなければいけません。大事なのは事実です」(井上さん)
【○】○月×日△時、A社のシステムが止まりました。現在、対応中です。原因は……
【×】A社のシステムが止まって対応中ですが、きっとうまくいくと思います。
西任暁子
U.B.U.speech consulting代表。大阪生まれ、福岡育ち。慶應義塾大学総合政策学部在学中にFMラジオのDJとしてデビュー。著書に『「ひらがな」で話す技術』。
井上高志
1968年、横浜生まれ。青山学院大学経済学部卒業後、リクルートコスモスに入社。97年にネクスト設立、現職。同社は2006年、東証マザーズ上場(現在は東証1部)。
江上 剛
1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、第一勧業銀行に入社。2002年に『非情銀行』で作家デビュー。近著に『55歳からのフルマラソン』など。