Case1.トラブルを報告する
仕事にはトラブルがつきもの。部下が上司に悪い情報を伝え、素早い対応をするために気をつける点は?

まず事実。報告者の主観はそのあとで

悪い情報ほど報告を早く――。よくいわれる格言である。しかし江上剛さんによれば、これを念仏のように唱えるだけでは、悪い情報は上がってこないという。

「上司に悪い情報を入れて、褒められたためしがありますか? ふつうは怒られます。それを経験的に知っているから、部下は悪い情報をなかなか上げようとしないのです」

クレーム情報が目詰まりし、大きなトラブルに育っては大変だ。江上さんが銀行支店長時代を振り返る。

「外回りの営業マンが営業日誌を上げてくるとき、1件も悪い情報がなかったとします。1日お客さんと接していながら、クレームもなければ、改善につながるご意見もなかったということです。でもそれは、きわめて不自然ですよ。外回りであれ窓口業務であれ、きっと何かはあるはずです。だから僕は、クレームやトラブル情報は必ず日誌に書きなさいと指導していました」

そのとき、最も大切なのは上司が報告を受ける姿勢である。

「一方的に話すだけではなく、『聞く』ところからコミュニケーションは始まります。ですから上司は、悪い報告を受けたとたんに『なんだ、それは!』などと頭ごなしに怒らないことです。中間管理職がやってしまいがちなことですが、わざと大げさに叱ってみせて『厳しい上司ぶり』を上役にアピールする人がいます。それは絶対にやってはいけないことです。また、トラブルの報告を受けたからには、上司は覚悟を決めて、命がけで解決にあたらなければいけません」

それを実践しているのが、創業社長の井上高志さんだ。早めにトラブル情報を吸い上げ、解決に向けて動き出すため次のようなことに注意しているという。

「社内にはクレームやトラブル情報といった悪い話は『速攻で持ってこい』と伝えてあります。その際、最も重要なのはファクト、事実です。とくにクレームを受けたという場合には、何が事実なのかをきちんと冷静に報告することを求めます。その件について部下がどう考えるか、つまり主観については、事実の報告を受けたあとに話し合います」