【田原】ただ、これからダメな中小企業を退出させると、失業者が増えるのではないですか。

【冨山】いや、日本は2、3年前から完全に人手不足になっています。きっかけはアベノミクスですが、根本にあるのは生産労働人口の減少です。団塊の世代が退職してもっぱら消費側に回ったので、需要は十分にあって、むしろ供給が足りなくなっています。需要が足りないときに供給サイドの改革をすると強い痛みを伴います。小泉(純一郎)さんのときはそうでしたが、需要が十分にあるいまなら副作用は出ません。そういう意味では、安倍(晋三)さんは絶好のチャンスを迎えています。

【田原】とはいえ、中小企業の新陳代謝を促すというと、自営業者からは反対の声があがるでしょう。

【冨山】反対するのは生産性の低い会社の経営者ばかりだと思いますが、彼らにも同情すべき点があります。リーマン・ショック以降、中小の経営者は、信用保証協会融資で100%、お金を借りることができました。ただ、信用保証協会も個人の連帯保証を要求します。そうすると、いざ債務超過で退出しようとしても、会社の資産では借金をすべて清算できず、結局は連帯保証で会社の借金を経営者個人が背負うことになります。

【田原】つまり会社を畳むなら、経営者は首をくくるか、夜逃げしろと。

【冨山】当然、彼らもそれは受け入れられません。だからずるずる経営を続けているし、いまさら「これから新陳代謝が必要」といわれても反対するしかない。

【田原】じゃあ、どうする?

【冨山】政策転換して、個人保証は免除する方向でやるべきでしょうね。すでに金融庁は個人保証のガイドラインを出しました。一部の金融機関もそちらの方向に舵を切り始めています。反応が鈍いのは政府系金融機関。政府系は税金が入っているのでおいそれと免除しますといえない事情があるのですが、政府系だから、政策次第でどうにでもなるはずです。

【田原】経営者個人が債務を背負わなくていいなら、退出のハードルも下がりますね。

【冨山】経営者が本当にひどいケースは徴求すればいいと思います。たとえば会社のお金をつまんで愛人を囲んでいるような経営者まで免除すると、モラルハザードが起きてしまう。そうではなく、本人は一生懸命やったけど競争に勝てなかったというところを免除する。高齢の経営者ならそのまま年金生活に入ってもらってもいいし、若い人なら再チャレンジしてもらってもいい。いずれにしても新陳代謝が進むことで、生産性が高くて賃金も高いところに事業や雇用を集約化していくことが大事です。

冨山 和彦
1960年生まれ。筑波大学附属駒場高校卒。東京大学法学部在学中に司法試験に合格、85年ボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社。86年コーポレートディレクション社設立に参画後、代表取締役社長。90年スタンフォード大学経営学修士取得。2003年産業再生機構の設立に参画し、専務兼COOを務め、41社の支援決定を行う。07年経営共創基盤(IGPI)を設立し、CEOに。09年9月からJALの再生を担い、12年12月から現職に復帰。13年経済同友会副代表幹事として活躍。『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(PHP新書)など著書が多数ある。
田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。県立彦根東高校卒。早稲田大学文学部を卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経てフリーに。幅広いメディアで評論活動を展開。
(村上 敬=構成 的野弘路=撮影)
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