【田原】問題は、どうやって生産性を高めるか。これはどうすればいい?

【冨山】ひとくちにローカル経済圏の会社は生産性が低いといいましたが、細かく見ていくと、結構ばらつきがあります。きちんと経営されている会社もあれば、ひどい会社もあります。ローカル経済圏には、税務申告以外、会計の数字を把握していない経営者はざらにいます。労働契約の意識も低くて、ブラックな環境の会社も少なくない。そういった会社は、退出してもらったほうがいい。生産性が低い会社が抱えていた事業や雇用を、まともな経営をしている会社にシフトすれば、全体として生産性が上がります。

【田原】そう簡単に事業や雇用をシフトできるかな。

【冨山】銀行業は預金保険機構があって、万が一つぶれても銀行の機能が継承されますよね。同じようなものを介護や医療、学校にもつくったらどうでしょうか。経営者には退出してもらうけど、機能は誰かがブリッジで引き受けて、内容のいいところに引き継がせるのです。

【田原】そうすると、賃金も上がる?

【冨山】同じ業種でも生産性の高い会社は賃金も高いですから、集約化によって給料は増えるでしょう。いまローカル経済圏の年収は、だいたい200万~300万円です。これが300万~400万円になってくると大きい。いま大手が2%ベースアップしても、もともと賃金が高いので、じつはほとんど消費に直結しません。経済に与えるインパクトが大きいのは、消費性向が強いローカル経済圏のほう。新陳代謝が進むことで年収が50万~100万増えたら、日本経済はガラリと変わるはずです。

【田原】そこで聞きたい。中小企業の新陳代謝が大事というけど、これまで政府は中小企業を守る政策を行ってきましたね。これは間違い?

【冨山】かつては生産性の低い中小企業の延命にも合理性がありました。日本はこの20年間、雇用が過剰で人が余っていた。となると潜在的な失業をどこかで受け止める必要があります。そのとき雇用の受け皿になったのが労働集約型の中小企業です。もし生産性が高ければ雇える人数が減ってしまうので、当時は生産性が低いほうが都合がよかったのです。

【田原】なるほど。ダメな企業を延命させたから、日本は失業率が低かったともいえる。

【冨山】ヨーロッパは失業率が20%前後です。これは選択の問題で、ヨーロッパは失業を潜在化させ、税金で直接面倒を見るというやり方をしました。一方、日本は中小企業に税金を入れて雇用を吸収させた。だから悪いときでも5~6%の失業率で済んでいました。