デフレの逆風の中で、キヤノンを成長へと導いてきた御手洗冨士夫会長兼社長。デジカメ市場が縮小したいま、次の一手は何なのか。経団連会長を務めた後も経営の最前線で舵を取り続ける御手洗氏に、田原氏が鋭く迫った!

将来トップは外国人でもいい

御手洗冨士夫氏

【田原】事業についてお聞きします。このところデジカメの売り上げが落ちています。これはキヤノンにとって深刻じゃないですか。

【御手洗】いや、だいたい読み筋どおりです。

【田原】落ちると思っていた?

【御手洗】いままでの10年間のデジタルカメラの伸びはある意味でバブルでした。バブルの正体は、アナログカメラの買い替えです。フィルムがなくなり、それまでアナログカメラを使っていた人は、必然的に買い替えざるをえなくなった。私の推測だと、それが10年で10億台ぐらいはあった。いまはその買い替え需要がほとんどなくなり、買い替え需要以前の状態に戻る過程にあるという見方をしています。

【田原】いまはスマートフォンで簡単に写真が撮れますね。

【御手洗】レンズ交換式カメラはスマートフォンと機能が違うので領域はバッティングしません。ですからレンズ交換式カメラは、今後もアナログ時代の最後と同じくらいの成長を続けると見ています。一方、コンパクトデジタルカメラ、とくに低価格帯の商品はスマートフォンに食われていることは事実です。ただ、スマートフォンでは撮れない領域もあります。小型化が進んだとはいえ、レンズ交換式カメラを常に持ち歩くのは大変ですし、スマートフォンでは撮れない領域もあるので、コンパクトデジタルカメラの市場は一定程度あると思っています。

【田原】これからキヤノンが成長を続けるには、カメラ以外のチャレンジが必要でしょう。具体的にはどういったものが進んでいますか。

【御手洗】たとえば映像制作機器です。いままで映画を撮影する際は、線路を敷き、カメラを滑らせて撮影していたじゃないですか。キヤノンの機材はこれまでになかったほど小型・軽量なのでカメラマンが機材を持って俳優たちと一緒に走れて、いろいろな角度から撮影できる。つまり撮影領域は格段に広がったわけです。これはハリウッドを中心に映像制作業界に受け入れられはじめています。それから、ネットワークカメラ。キヤノンの技術だと、線香一本の明るさで、真っ暗な部屋の中にいる人の全身が写ります。ネットワークカメラは成長分野で、全世界で年率20%伸びると期待されています。