なぜいま日本国内に工場を戻すのか
【田原】キヤノンは国内生産比率を、50%に高めるという方針を打ち出しました。日本企業はここ数年、円高や国内の労働賃金の高さから、生産拠点を海外に移す動きが強かった。御社の戦略は、この流れと逆行していますね。
【御手洗】リーマン・ショック前の為替水準は1ドル120円、1ユーロ160円でしたが、当時キヤノンでは60%を国内で生産していました。ところが2011年にドルが80円前後、ユーロが100円前後になると、さすがにその水準には抗し切れずに生産の一部を海外に移さざるをえなくなりました。それを再び国内に戻そうということです。現在、国内の生産は約43%なので、最低50%にまで戻したい。いまの為替レートであれば、可能だと思います。
【田原】企業としては、労働力が安いところで生産したほうが得なはずです。どうしてわざわざ日本に戻すのですか。
【御手洗】経営者としての強い思いと言ってもよいかもしれません。わが社は77年の歴史の中でリストラをしたことが一度もありません。そのくらい労使一体となって経営を進めてきている会社なのです。私はそれを何としても守りたいし、実際、1999年に大不況になったときでも、終身雇用を守ると明言しました。私は何としても国内に生産を戻し、雇用を確保していきたいと考えているのです。
【田原】意地でもリストラはしないと。
【御手洗】74年の大不況のとき、私はアメリカで40名を解雇せざるをえませんでした。アメリカなら解雇しやすいだろうと思われるかもしれませんが、実際にやってみると、一生懸命やっていた人たちを解雇することほどつらいことはないと悟りました。あんな思いは二度としたくないと、そのとき誓ったのです。