――2014年度第14半期(14年4~6月)においても赤字幅が縮小し、決算会見でも「順調」「改善」という言葉が出てきましたが。

【高橋】正直に言うと、私はまだその言葉を使いたくないのです。ただ、決算会見の場では、9月の1000億円の社債償還が確実なものであるということはしっかり言わなくてはならない。それを自信がなさそうに言うわけにはいきません。

また、第14半期を総括すると予想を上回っていますが、売上高は前年同期比1.9%増。消費増税後の反動などもあるものの、トップラインが伸びていないことはしっかりと認識しなくてはならない。そして、自己資本比率は6月末で9.4%まで戻ってきたが、20%が健全水準だとすれば、まだまだ届かない。

こうしてみると、いまの状態は「玉虫色」としか言えない。良くもあれば、悪くもある。ただ、経営をやっていて、「これで大丈夫」というときなんて、一度もないと思うんですよ。会見ではよく「構造改革は何合目ですか」と聞かれますが、そんな目安はありません。だから、「リセットして、ゼロから再スタートです」と答えるのです。常に厳しい環境を意識して、そこに身を置いて取り組んでいかなくては、これから100年持つ企業にはなりません。

――社長就任直後に、シャープは経営理念および経営信条を忘れていたと語りました。また、顧客視点の欠如、チャレンジ精神の低下、そして社員が自ら動かない風土があるとも発言しました。これはいまどのように変化していますか。
茶葉を挽き、お茶を点てることができる「ヘルシオ お茶プレッソ」。今年4月に発売後、すぐに品薄状態となった人気商品。5月には当初計画の月産4000台体制を5000台体制へと引き上げた。

【高橋】最初にこの言葉を聞いた社員は、かなりショックだったと思います。社長がいままでのやり方を完全に否定したわけですから。ただ、その言葉の意味をちゃんと理解してくれた社員も多い。チャレンジしようという意識が出てきたことを感じますし、社員自らが動き始めた成果も出てきました。

具体的な商品として、誰もが思いつかなかった、茶葉を粉末にして栄養価の高いお茶を飲む専用マシン「ヘルシオ お茶プレッソ」や、コードレスサイクロン式掃除機「FREED(フリード)」が登場しましたし、13年5月に発足した新規事業推進本部では、「ヘルスケア・医療」「ロボティクス」「スマートホーム/モビリティ/オフィス」「食/水/空気の安心安全」「教育」の5つの領域と、「革新商品」をあわせた6領域から、28種類の技術およびサービスを公開することができました。これらの技術は、今後1~2年以内に事業化できるものが多く、さらに数多くの非公開の新技術があります。

ただ、ここでも課題をあげるとすれば、ビジネスに結びつける力が弱いということがあげられます。ちょっと酷い言い方になりますが、チャレンジしても、おカネに結びつかなければ「趣味」で終わってしまうわけです。事業にするには、ビジネスとして成り立つことを考えなくてはならない。

14年4月には、新技術を新ビジネスへとつなげる役割を担う「市場開拓本部」を新設しました。ぜひ、15年度から成果をあげてほしいと考えています。ただ、市場開拓本部には、まだ予算をつけていません。予算をつけると初年度はいいのですが、翌年には前年実績を上回る予算がつきますから、どうしても後継機に目がいきがちになる。海のものとも山のものともわからないものには手を出さないようになる。それでは、市場開拓本部の意味がありません。まだ予算をつけるかどうかは決めていませんが、こうしたことも、チャレンジする文化を醸成するうえでは、しっかりと考えなくてはならない部分ですね。しかし、文化を変えるというのはつくづく大変なことだと実感しています。