社内に新しい文化をどうやって植えつけるか
――それはどうしてですか。
【高橋】初めはショックだった社員たちも、1年経つとショックが薄らいできて、また先祖返りしつつあることが見受けられ始めたからです。これは私自身も反省しなくてはいけないことです。人間って、「あっ、変わったかな」と思ったら、また戻ってしまう。
就任してすぐに社内コミュニケーションの改革を行って、私の発信したメッセージに社員が直接意見を返せるようにしましたが、新年最初のメッセージには300通を超えるメールが来ました。言いたいことを直接、社長に言えるようになってきたという点では、文化は変わってきたと言えます。
ただこんな話もあります。オープンな社風をつくるために、「さん」づけ運動を始めたのですが、最近、私宛てのメールに「さん」じゃないものが来る。初めは返事の最後に「今度は『さん』にしてね」と書いていたのですが、そこまでしつこくやるべきなのか。あまりに強いプレッシャーで「さん」づけしなさいと言い始めたら、それこそ前の文化に逆戻りです。「さん」づけするのが目的だったはずではないのに、そこにこだわると本末転倒になる。
一方でこんなこともあります。私が社長になってから、事業部門には数字を押しつけないから自分で考えてくれと言いました。すると、なかには安全な数字をつくる人もいる。ある意味、チャレンジ精神が低いわけです。ところが一方では、数字を達成するために最後の最後までがんばって挑戦をする。しかし、それをやり遂げたいがために、上には進捗状況をぎりぎりまで報告しない。ポジティブなのはわかるが、リスクは早く言ってほしい(笑)。達成できると思っていたものが、「開けてびっくり」ということもあるんです。こうしたことが起こっているのは、まだ私のメッセージが明確ではないということの表れでもあります。人によって捉え方も違うし、私の言い方にも温度差があるのかもしれません。
いまはチャレンジする文化をどう植えつけるのかということに力を注いでいます。ただ、文化を変える取り組みというのは、きっと私の世代だけでは定着しないと思います。おかしなことを変えていくということに対して、これから三代先、四代先の社長まで、強い意志を持って取り組んで、初めて定着するのではないでしょうか。
1954年、大阪府生まれ。80年、静岡大学大学院工学研究科修士課程修了後、シャープ入社。2008年執行役員、10年常務執行役員、12年4月副社長執行役員、同6月代表取締役兼副社長執行役員を経て、13年6月より現職。健康・環境システム事業本部長時代にプラズマクラスターの普及、拡大を図る。米国販売会社会長時代には、液晶テレビの大型化戦略を展開。座右の銘は「あきらめへん」。