ジョブズは“失敗王”だった!
ソニー、パナソニック、シャープ……日本の電機メーカーの停滞が続いています。各社とも円安によって直近の業績は回復傾向ですが、イノベーティブな製品で世界の市場をリードしたかつての面影はありません。5年後、10年後、本格的に復活するためには何が必要か。そのことを考えるヒントは、現在のアップルにあります。
スティーブ・ジョブズが亡くなって1年半。もし、株価が低迷する今のアップルの状態を知ったら、彼は何と言うでしょうか。私はもともとティム・クックがCEOになった時点でアップルの将来を懸念していました。その理由は、ジョブズが典型的な「知の探索」型人間なのに対して、クックは「知の深化」型人間だからです。
実は、ジョブズは“失敗王”でした。アップルが最初に製品化したパソコンも、共同創業者のウォズニアックが設計したと言われています。ジョブズは1度追放されますが、戻ってきた後に発表したAppleTV、ソーシャルネットワーキングサービスのPing、クラウドサービスのiCloud……うまくいったとは言えないものをたくさん世に送り出しているのです。
もちろん、彼は類い稀な“成功王”でもありました。iMac、iPod、iPhone、iPad……これらもジョブズが世に出した製品です。
革新的な商品やサービスは、どのようにして生まれるか。近年、世界のイノベーション研究では、そのために欠かせないのが知の幅を広げる活動、すなわち「知の探索」であると主張されています。
イノベーションは、ある知識と別の知識の組み合わせで起こることが多いため、知の幅を広げ、いろいろな知の組み合わせを試すことが重要になります。アップルのこれまでの躍進は、どの製品やサービスが成功あるいは失敗したかという表層的なことより、常に知を探索してきた同社とジョブズの姿勢に真因を求めるべきでしょう。
一方で、知の探索にはリスクがあります。そればかりをやっていると企業の屋台骨が揺らいでしまう。そこで必要になってくるのが「既存の知の深化」です。例えば、成功モデルとなった事業の効率を上げ、オペレーションを進化させること。これも立派な知の深化です。そしてアップルでそれを担っていた主要人物がクックなのです。