ソニーAIBO撤退は妥当だったか

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不確実性の時代に必要な「両利きの経営」

知の探索と深化、その両方をバランスよく追求することを経営学では「両利きの経営(ambidexterity)」と呼びます。1991年にスタンフォード大学のジェームズ・マーチ教授が生み出したこのコンセプトは、アメリカのイノベーション研究界で今もっともホットなテーマです。例えば昨年アメリカのトップクラスのイノベーション研究者が集まった某学会では、そのほぼ全員が「両利きの経営」についての研究発表をしたほどです。

イノベーション重視の背景にあるのが経営環境の変化です。それには2つの面があります。

1つは企業が競争優位を持続させることが非常に難しくなったこと。以前は、優れた製品を市場に出したり、業界内でよいポジションを取ったりすることができれば、比較的長い間、競争優位を保つことができましたが、最近ではそうではなくなっています。統計分析を使った実証研究でもその傾向が表れています。

もう1つはいくつかの産業でビジネスの不確実性が高まっていること。技術革新のスピードが速まり、事業環境の先を見通すことが非常に困難になっています。

コンピテンシー・トラップに陥ってイノベーションが枯渇してしまい、この経営環境の変化に対応できなかったのが、日本の電機メーカーと言えるかもしれません。

発売から7年で開発中止となったソニーのロボット犬「AIBO」。(写真=PANA)

90年代以降、「選択と集中」が叫ばれ、利益の出ない分野を切っていったことを思い起こしてください。これは不況の中でやむをえないことではありましたが、知の探索を自ら放棄する行為でもあった、と私は考えています。典型的だったのがAIBOというロボット事業をやめたソニーです。

AIBOは99年に発売された人工知能を備えたペット型のロボットです。家庭用ロボットの先駆けとして人気を博し、世界で約15万個売れました。しかし、ソニーは2006年、エレクトロニクス事業の立て直しのため、不採算事業からの撤退を発表。この中にはAIBO事業も含まれていました。数ある業界の中でもすでに不確実性が高く、知の探索が求められる電機業界にいたソニーという企業が、はたして採るべき選択肢だったかは疑問が残ります。

その意味では、4月に事業部制を復活させたパナソニックも気がかりです。事業部制は組織のタコツボ化を促し、企業全体における知の探索を鈍らせてしまう可能性があります。ある事業部門で知の探索を行い、新しい知を手に入れても、他の部門には行き渡りにくい。その事業部門からは特定製品の機能向上のような、インパクトの弱い「漸進的なイノベーション」は生まれるかもしれませんが、企業全体での知の探索力は低下し、「革新的なイノベーション」が起こりにくくなる可能性があります。

これまで述べてきたように、電機メーカーを筆頭としたイノベーションに悩む日本企業が復活するためには、「両利きの経営」が欠かせません。では、どうすれば可能となるのか。次回は両利きの経営を実践し、中長期的に成長する方法について探っていきます。

(構成=荻野進介 写真=PANA)
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