さて、部下世代の職業観を引き上げるもう一つの切り口が「動機」です。

部下世代は、自分の判断がなく、上司の指示を杓子定規に実行する傾向があることはすでに述べました。その結果、次のようなことがよく起こります。

営業でお客様に最適の提案をするには、まず先方のニーズについて情報を収集する必要があります。そこで上司は部下に「ヒアリングしてこい」と指示をします。すると、部下は「○○でお困りではないですか」「この商品で解決できますが、いかがですか」と、いきなり売り込みのための質問を始めてしまうのです。

こうした営業マンに、「なぜそういった質問をしたのか」と聞くと、たいていは「上司に命じられたから」「営業支援ソフトに入力項目があるから」といった答えが返ってきます。彼らは自発的に聞いているわけではなく、誰かにやらされて仕方がなく聞いているだけなのです。

自分の頭を使って、自発的に質問するかどうか。その差を分けるのが「動機」です。

部下に「顧客のビジネスに貢献したい」という動機があったとします。本気でそう考えていれば、お客様のビジネスのことを深く知りたくなるはずです。そうすると、「事業の方向性はどうなっているのですか」「競合は、どこを想定されていますか」と突っ込んだ質問が自然と出てきます。逆に言うと、通り一遍の質問しかできないのは、動機がないからなのです。

営業のヒアリングを例に説明しましたが、動機が重要であることは他の仕事でも同じです。動機が深ければ、事務処理系の仕事も、受け身の“やらされ仕事”から、自ら考え行動する“やりがいのある仕事”へと変わっていきます。

問題は、部下世代にどうやって動機づけするのかでしょう。残念ながら、指示によって動機づけはできません。動機は、本人が自分と対話を重ねて、頭を悩ませ続けた末にようやく生まれてきます。「こうすれば面白くなる」と上司が力説するのは逆効果で、むしろ強制感につながります。

では、部下の動機づけのために上司ができることは何でしょうか。基本的には部下が自分で気づくのを待つしかありませんが、気づきやすい環境をつくることは可能です。そのために、私は3つのことができると考えています。

1つは、会社の中長期の目標を明確にすることです。会社がこれからどこに向かい、何をしようとしているのか。そういった情報は、部下が自分で考えるときの格好の材料になります。

2つ目として、上司が質問することも大事です。部下が行動するとき、その都度、「何のためにやるのか」と聞くのです。質問すれば、部下は考えざるをえません。自分で考えずに指示どおりに動こうとする部下世代にとっては、「なぜ」と問うことが最大の刺激になるはずです。

3つ目として、あえて部下を奮起させるのも有効です。いまの部下世代はスマートなので、「なぜ」と理由を尋ねると、どこかで聞いたような模範解答が返ってくることが少なくありません。そこで「お客様に貢献したいというけど、お客様は本当にそれで喜ぶのかな」と反論するのです。動機が腹落ちしている人は、水を差されたことに対して、おそらく反発するでしょう。そうでない部下は、動機が借りものだったり、まだ深まっていない証拠となります。さらに時間をかけて見守っていく必要があります。

目標と動機。この2つが揃うと、部下世代も自立的に物事を考え、まわりに振り回されなくなります。そこまで部下を引き上げることが上司の役目です。一朝一夕にはいかないかもしれませんが、粘り強く育成に努めてほしいと思います。

(構成=村上 敬)
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