しかし、目標自体が確固たる根拠にもとづいて決められたものではないため、それを与えられた部下も納得度が低いのが現状です。

実際、営業の売り上げ目標は確かな根拠がないまま、トップダウンや前年比を基に決定される場合が少なくありません。たとえば経営企画部が会社の予算を決めて、それを事業部ごとに割り当て、さらに「この部は10人だから○○億」というように決定します。これだと個人の目標は、予算を決定する担当者のさじ加減一つになり、どこかの部署から不満が出たら、「あの部は軽くして、こっちの部に回そう」と配分が変わることもあります。

あるいは、全体予算を割り当てるのではなく、「対前年比で20%増にしよう」と決める企業もあります。この場合も何か根拠があるケースは稀です。「市場が来期は20%成長するから」という根拠があるならいいのですが、「来期はもう少し頑張れる」という精神論で決まってしまいます。

根拠が乏しいのは、キャリア目標も同じです。ドメスティックな業界で海外に進出する予定もないのに、社長が「これからはグローバル人材だ」と言って、社員にTOEICを受験させる会社もあります。このように、ちょっとした思いつきでキャリアプランが決まるケースは少なくないのです。

こうして決まった根拠の薄い目標は、3つのデメリットをもたらします。

まずは、「現実との乖離」です。目標を設定するマネジャー世代は、右肩上がりの市場を前提としてマネジメントされてきた世代です。ですから、リーマンショックで市場が半分になっても、「目標を今期の実績より下げるなんて考えられない。少なくても現状維持だ」と強気の目標を設定しがちです。しかし、市場が半分になるのに売り上げ目標を据え置くということは、シェアを倍にするということで、これはさすがに無謀です。たいていは途中で修正を余儀なくされます。

逆に、目標が低すぎるパターンもありえます。たとえば市場は倍々で急成長しているのに、根拠なく「目標は対前年比で10%増」と決めた結果、多くの機会損失を生んでしまいます。これは非常にもったいない話です。どちらにしても、目標は実体を反映させることが大切です。実体を無視して希望や憶測だけで決めると、現実とかけ離れたものになります。

2つ目は、「あきらめを助長」というデメリットです。目標に根拠がないことは、部下も薄々気づいています。そうすると、目標にコミットする気持ちも湧きません。その結果、暗雲が立ち込めはじめると、「どうせ現場を知らない人間がつくった目標だから、達成できなくても俺たちのせいではない」と、悪い意味で開き直る部下が出てきます。つまり根拠がないことが、目標達成をあきらめることに口実を与えてしまうわけです。