当然のことながら、株主総会は非難の嵐でした。ペテン師だ、バブル男だ、と。もっと直截的に、「犯罪者」「ヤマ師」「嘘つき」「泥棒」などと言う人もいました。株主の皆さんにとって僕は、「マネーゲームに興じた愚か者」に映ったのでしょう。そんな男に資産を100分の1にされたら、腹が立たないわけがありません。はらわたが煮えくり返り、目を三角にした数千人の株主が総会に集結したのです。
涙に包まれた6時間の株主総会
その場で、僕は一生懸命に説明しました。ソフトバンクは縮小も撤退もしない、ネット事業にこれからも社運をかけて挑んでいきます、と。僕の志は、一切揺るぎのないものなのです、と。
休憩なしで約6時間ぶっ続け。おそらくその株主総会にかかった時間は、ソフトバンク史上最長です。僕は終始一貫、一人で全部受けて立ちました。一切質問をそらさないで真正面からお答えしました。誠心誠意、自分の志を述べさせていただくしか僕には方法がありません。すると徐々に空気が変わり始めました。僕は、総会の後半に発言したおばあさんのことをたぶん一生忘れられません。
「私は、主人の残してくれた遺産、何十年も勤め上げていただいた退職金の遺産のすべてをソフトバンク株に投入しました。1000万円分です。それは孫さん、あなたの夢を信じたからです。あなたの夢と志を信じたからです。株価が99%下がって全財産の1000万が10万円になっちゃったんです。だけど悔いはありません。今日、あなたの話を直接聞いて、私はあなたの夢にかけて本当によかったと、心から思いました。私は、信じています。どうか頑張ってください」
10年近く前のことですが、今もおばあさんの姿が頭に焼きついて離れません。株主の皆さんの3分の1以上が涙を浮かべ、ハンカチを口もとに当てていたことを覚えています。
非難轟々で始まった総会でしたが、最後には割れんばかりの拍手で閉幕。30年間会社経営してきた中で、僕にとって、このときほど苦しく、また最高にうれしい総会はありませんでした。