インフラ整備の遅れが、“足枷”になる

日本エア・リキードの上席常務執行役員、フィリップ・マルチネスは「日本で水素ステーションを建設するコストは、ドイツの3倍」と語る。

産業用ガス世界2位の仏「エア・リキード」。同社の現地法人である日本エア・リキードは、日本市場に参入して100年以上、水素に関する幅広い知識と経験を有するエキスパート的な存在の企業である。13年10月、豊田通商と燃料電池車向け水素ガス供給事業を共同で進めることで合意し、合弁会社を設立した。合弁の新会社は、愛知県内に2カ所の水素ステーションを設置し、14年末の稼働を目指して最終調整を急いでいる。

水素ステーション建設の際、必ず問題となるのが日本の“規制の壁”である。特に高圧水素ガスの輸送・貯蔵に関する安全基準に関して、同社の上席常務執行役員であるフィリップ・マルチネスは、次のように問題点を強く指摘する。

「各国の規制に従うのは当然ですが、他の国に比べて日本の規制は非常に厳しい。アメリカやドイツに投資する場合と比べて、日本で規制を満たす水素ステーションを建設する場合、3倍のコストがかかる。このままでは事業が難しく、繰り返し政府に“規制緩和”を要請していますが、まだ非常に大きな問題が残っているというのが、正直な気持ちです」

ドイツの水素ステーションは、非常に簡素な構造でできている。

マルチネスによれば、欧州で水素ステーション建設にかかる平均コストは約1億5000万円。日本が欧州の3倍のコストということは、4億~5億円かかる勘定になる。水素の規制に詳しい関係者に話を聞いても、水素ステーションの設置費用は5億~6億円が相場で、ガソリンスタンドの10倍の費用がかかる。

水素社会実現のためには、「規制緩和」が不可欠ということはわかった。現在、水素を輸送する手段は、気体の水素を高圧で圧縮して専用トレーラーで輸送し、水素ステーションなどに貯蔵している。高強度の炭素繊維製ボンベや、爆発を防ぐ設備などが必要で、かつ“安全性”のためのさまざまな規制で縛られている。

これらの規制に関係する法律は、「高圧ガス保安法」「建築基準法」「消防法」など。関連する省庁も、「経産省」「国交省」「消防庁」にまたがり、縦割り行政も、水素規制の見直しをより難しくしている。