※本稿は、小島尚貴『脱コスパ病 さらば、自損型輸入』(育鵬社)の一部を再編集したものです。
「安くてかわいい」で若者を掴んだシーイン
ファッションや流行に疎い私がシーインの存在を知ったのは、個人的に二十年、顧問を務めている福岡の大学生サークルFUNで毎週土曜に一緒に勉強している女子大生の話がきっかけです。シーインについて聞いてみると、「みんな知ってますよ」、「ティックトックやインスタでも頻繁に見ます」、「めちゃ安ですよね」、「GUやニトリよりも安くてかわいいと言って買う友達もいます」とのことでした。
その名の響きから、すぐに中国系だと分かるシーイン。公式サイトによれば、2008年に南京で創業され、ウェブサイトとアプリでの激安ファッション、生活雑貨、アクセサリーの販売で急成長し、売上は非公開ではあるもののZARA、H&M、ファーストリテイリングという巨大SPAの売上を上回る勢いとのことです。
シーインを扱ったサイトやブログで多く目に付くのは、「アプリのダウンロード数でアマゾンを超えた」、「アメリカでZ世代に大人気」という二つの話題で、流行に敏感な日本の若い女性を一瞬で説得するインパクトがあります。
日本企業がまったく関与していないビジネス
このシーイン、昨年、期間限定で展開された大阪のポップアップストアには4000人が行列を作り、その後は原宿に常設店舗を開設し、日本のメディアを招いて大々的な宣伝を行ったそうです。
デザイン性、かわいらしさ、質感、流行との相性といった消費者目線での同社製品の価値は、中年男性の私には分かりませんが、貿易マンである私から見た同社の「アパレル・雑貨SPA」としての特徴は、「企画、デザイン、開発、縫製、検品、流通、広告、営業、販売、顧客フォローまで、一つも日本企業の関与なく完成させた」という点にあります。
同社が扱うカテゴリの製品はアパレルのみならず、ダイソー、ニトリ、ドン・キホーテ、ワークマンなどの製品とも一部重なり、また、今後もっと重ねていくのかもしれませんが、驚くべきはシーインに行列を作る消費者以外、「日本人の存在がない」ということで、日本企業は「用済み」になって捨てられてしまったという事実です。