一体感を醸成する「第三のボーナス」

LEDの主力工場は、中国の大連だ。3月末、山形まで車でいき、飛行機で羽田へ飛び、成田へ移動して大連便に乗る。着くと、大号令をかけ、フル生産を促す。競合メーカーが様子見を続けている間に、生産設備を発注、従業員も増やし、LED電球を量産する。今冬、各地でクリスマスシーズンを彩るLEDの多くが、そこから生まれた。

3年や5年の「中期経営計画」は立てない。28歳のときに勃発した石油危機時の経験で、「当然」「常識」と思われてきたことが、全く通用しなくなることも起きる、と知った。一時的な風向きよりも、長期的な潮の流れをみるようにしてはいるが、「3年先を読むことなど無理」と思う。ただ、投資は続ける。人々が困っていることや望んでいることから「こんな品があれば買いたい」という製品は、尽きることはない。社会の中に、自社の姿を静かに置いてみれば、景気動向とは関係なく、投資すべき対象はみえてくる。

「人莫鑑於流水、而鑑於止水。唯止能止衆止」(人は流水に鑑みる莫くして、止水に鑑みる。唯、止のみ能く衆止を止む)――流れる水は揺れて、人の姿を正しく映さないので、誰も鏡とはしない。でも、静止した水は、真の姿を写す。いつも止まった水のように静かで澄んだ心でいれば、社会の真の姿をとらえ、きちんと判断ができる、との意味だ。中国の古典『荘子』にある言葉で、大震災直後にみられた大山流の静かな決断と行動は、この教えと重なる。

実は、夏と冬の賞与のほかに「第三のボーナス」を出している。87年4月から、税引き後の利益の5%を、決算賞与に充てた。こちらは41歳のときの決断で、対象は主任以上の社員だ。2009年からは、社員たちの努力の成果がより反映されるように、原資を営業利益の4%に変えた。主任になるのは入社して約10年。収益への貢献度で額を決めるので、部下のほうが上司よりも多いケースも出る。

この「第三のボーナス」で、自社株を買えるようにもした。会社は誰のものか、と言えば、理屈では所有者つまり株主のものとなる。だが、会社は、経営者だけでは成り立たない。社員と経営者が一体化し、経営者と株主が一体化することが、理想だ。そう思うので、株式は上場しない。投機資金にもてあそばれるのは嫌だし、そんな株主に配当を払うよりは社員に払いたい。

世にある会社の問題点、不祥事などを観察すれば、会社と社員の関係が希薄で、針路を共有していないことが原因と映る。やはり、何よりも一体感が、重要だ。自社の企業理念の第三項も「働く社員にとって良い会社を目指し、会社が良くなると社員が良くなり、社員が良くなると会社が良くなる仕組みづくり」とした。

「止能止衆止」で得た答えだ。

消費者のため、地域のために、自分たちには何かできるのか。自社の持つノウハウや強みを、どう生かせばいいか。大震災から、もうすぐ3年。再び、思いはそこへ向かう。

最近、美味しくて安全なコメの生産と流通に、協力を始めた。製品を運ぶ輸送網で集荷し、工場で精米を引き受け、運び出す。宮城県内の農業生産ファームと共同で新会社を設立し、精米専用の工場も建設中で、来年6月には稼働する。

11月3日夜、自宅で、テレビにくぎ付けとなった。5年前からメーンスポンサー役を務める東北楽天イーグルスが、日本シリーズで勝ち、見事に日本一の栄冠を得た。監督と選手たちの一体感こそが、やはり勝利の原動力となった、と思う。

(経済ジャーナリスト 街風隆雄 撮影=門間新弥)
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