アイリスオーヤマは2009年にLED照明で家電事業へ本格参入し、2013年には「大阪R&Dセンター」を設けてさまざまな家電の開発を始めた。研究開発では大手メーカーの転職者を迎え入れ、業績を拡大させてきた。なぜアイリスの家電は成功したのか。日経産業新聞副編集長の村松進さんは「開発者は会議で『誰よりも私自身がこの新商品を買いたい』とトップを説得する必要がある。だからこそ、先行する大手とは異なる商品を作れた」と指摘する。

※本稿は、村松進『アイリスオーヤマ 強さを生み出す5つの力』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

なぜアイリスは年間1000点も商品を出せるのか

日用品から家電、食料品まで幅広く手掛けるアイリスオーヤマは1年間に約1000アイテムの新商品を発売する。アイリスオーヤマが独自性の高い多くの新商品を素早く発売できる背景にあるのが、毎週月曜に開く新商品開発会議(プレゼン会議)だ。

どんな企業でも会議は開いている。しかし大山健太郎会長は「一般的な会社は月次会議で経営の方針を決める。当社は社長や幹部が集まって毎週1回、年間では約50回の会議を開いて現場担当者から商品開発のプレゼンテーションを聞く」と頻度の違いを強調する。

プレゼン会議で担当者が1つの商品の説明に費やす時間は約5分間で、大山晃弘社長がゴーサインを出せば会社としての開発方針が決まる。

そして「当社が速いのは開発スピードではない。ジャッジ(判断)スピードだ。プレゼン会議は社長の考えを社内に浸透させる場でもある」と大山会長は言う。「1人の社員が50回の会議に10年出れば、合計で500回だ。この会議自体が情報を共有する機会になっており、他社がまねしようとしても簡単なことではない」と強調する。

プレゼン会議で社長が話していること

アイリスオーヤマのプレゼン会議で、大山晃弘社長と担当者は一体どんな会話をしているのか。日本経済新聞社のコンテンツ配信「NIKKEI LIVE」で実際の会議を取材したことがある。それは、こんな内容だった。

小型家電事業部の社員が、大山社長をはじめとする幹部が扇状に広がって座る会議室の中心部に立つ。そして新商品の開発に向けて練ってきたアイデアのプレゼンテーションを始める。

ある製品の市場規模や価格動向などを説明する社員に大山社長は「結構な値段だよ」と語りかけ、価格へ注意を払うことを促す。

「そうですね。私も想定よりは、ちょっと高いなという感覚はありました」と答える社員に、大山社長はしばらく沈黙した後で「ちょっと高いんじゃない?」と聞き返す。その後で「そうね、デザインで売るんだな」とつぶやいた。

ここからが経営トップとしての判断だ。「デザインで売るんならデザインが無いと、なんとも言えんな」と述べたうえで「何を作るのかということが、明確じゃないじゃん」と課題を指摘する。「もうちょっとさ、明確にしようや。ブレてるよ。これ、ただデザインや見た目がいいだけじゃん。欲しいと思う人が、ちょっとそれじゃ少ないんじゃない?」と疑問を投げかけた。