アイリスオーヤマ社員が自宅でする「使い倒し」とは

アイリスオーヤマは失敗を恐れず、それを糧として新たな手を組織全体で次々に打ち続ける。そして他社が犯した「失敗」も、自社の力にしてしまう。その典型例が他社製品の「使い倒し」だ。

開発担当者が会議で自身のアイデアを通すには、生活者に「なるほど」と思わせるデザインや機能などを示すことが欠かせない。そのために技術者たちは自身がユーザーとなり、生活者の立場で同業他社の製品を徹底的に使ってみる。その行為を使い倒しと呼んでいる。

パナソニックとアイリスの決定的な違い

2017年の夏、アイリスの商品開発の秘訣ひけつを探るため、各地の拠点を取材した。最初に向かったのは大阪市にあるアイリスの家電開発拠点「大阪R&Dセンター」だ。社員証をかざさなければドアが開かないフロアには、多くの試作機が他社製品とともに並んでいた。その近くでは技術者たちが開発中の商品の動作確認や、他社製品との性能比較に追われていた。

担当者の多くは他社からの転職者たちだった。当時のデザインセンターマネージャーは、かつてパナソニック(現パナソニックホールディングス)で洗濯機や炊飯器、テレビなどのデザインを担当していた経験を持つ。「パナソニックのデザイン部門と比べれば、うちの人数は100分の1ぐらい。そして仕事の進め方は正反対だ」と語った。

マネージャーはアイリスに入社した直後の時期に、社長だった大山健太郎氏から意外な言葉で叱責しっせきを受けたことがある。「そんな数字より、おまえ自身はどう思うんや」というセリフだ。

少量の油で揚げ物ができる調理器の開発会議で自分が考案したデザインの長所を示すため、他社製品と比べた市場調査の結果を示したときのことだった。

「パナソニックでは複数の部署と連携して市場調査などのデータを過不足なく集め、様々な会議を確実に通す提案書を書けるのが優秀な人材だった」と振り返る。

一方で、アイリスは許可を得る手順が極端に少ない。毎週月曜に宮城県の主力生産拠点で開くプレゼン会議で計画が了承されれば、それで決まりだ。