トヨタより、日産より先にマツダ車を
「よう、わからんのう……」。営業領域総括の毛籠(もろ)勝弘常務執行役員が09年に社内でブランド価値について話したとき、社員の反応はいまいちだった。
「正価販売を大切にしていく。値引きはやめよう。お客様が抱く、マツダへのブランドロイヤルティを上げていくことが、我々が成すべきすべてなんだ」「退屈なクルマはつくらない。マツダは得意を伸ばす」。毛籠は「つながり革新」ということで、社内で訴え続けた。
少子高齢化が続き、軽自動車が4割を占める国内市場で、マツダのブランドは少し前までは弱かった。
「CX-5は、欧州に赴任経験があって、クリーンディーゼルを知るお客様に人気です。当店では、輸入車と比較検討されるケースが多い」。こう話すのは、関東マツダ洗足店(大田区上池台)の垣本紀雄店長だ。高級住宅地が近い同店は、マツダの車両デザイナーが店舗を設計し、昨年11月にリニューアルしたばかり。
93年に入社して、三鷹地域で自動車営業を始めた頃、垣本は頻繁に夜訪を重ねた。時には玄関先で順番待ちをし、他社の営業マンと入れ替わりで値引き交渉をすることもあった。しかしいまは「値引きではなく、マツダ車が持つ価値で勝負しています。夜訪を否定はしませんが、いまは店頭での対面販売です」と垣本。
売り方もオシャレになっていて、営業マンはみな研修を受け、技術やデザイン、ブランドと幅広い見識を有している。
「昔は、トヨタさんを見て、日産さんを見て、ホンダさんを見て、ウチに来る方が多かったのですが、いまは一番最初に来ましたと言ってもらえることが多くなりました」
「モノ造り革新」により、新しい価値を創出したマツダ。“一発屋”を返上して、持続的な成長を遂げていけるのか。
小飼は言い切る。「余計なことをやらないことでしょう。会社が持つリソースは限られるので、一点集中でやっていきます。これからも。新興国専用車をつくることはないし、蛇足をやると失敗します。他社と環境技術での協力は増えるでしょうが、資本の提携は考えていません」。
(文中敬称略)