新人の社会化と組織化、その両方を実践するにはどうしたらよいのだろうか。「正統的周辺参加」という理論がある。これは「座学などで学んだことを、実際にやってみることが学習の本質である」という従来の学習理論を否定したものだ。失敗しても全体に大きな影響は及ぼさない周辺的な立場に置かれることから出発し、とにかく組織の正統的な一員として処遇されることの重要性を指摘する。

成功や失敗を繰り返し、周辺的な仕事から中心的な仕事を担う立場になっていく過程を経て、「自分は組織の一員である」という確かな自覚が生まれる。その自覚が生まれれば、個々の仕事能力は格段に上がっていく。それが組織における学習の本質だという考え方である。これは新人の社会化と組織化の両方を促進するやり方ともいえる。

正統的周辺参加はマクドナルドでも十分に実践されているが、さらにわかりやすいのがスターバックス コーヒーの例だ。

同社ではアルバイトと社員全員をパートナー(仲間)と呼び、アルバイトからの社員登用を積極的に進めるなどその間に溝を設けていない。それにとどまらず、古株のアルバイトと新人の間の溝もほとんどつくっていない。同社ではおいしいコーヒーを入れる技術が何よりも重視される。組織の一員となった新人は、おいしいコーヒーを入れられるよう努力を重ね、その結果ふさわしいスキルや知識を身につけることができるのだ。

逆に「アルバイトは社員とは別だから、簡単な仕事だけやらせておけばいい」「新人は新人らしくしていろ」と社員や古株のアルバイトから見下されていたら、非正統的周辺に置かれることになって意欲は下がるばかりだ。つまり若手や新人を差別せず、全員が会社という船の重要な乗組員だ、という意識を持たせることが重要なのだ。

皆さんの職場では新人を同志として温かく迎え入れ、しかるべき仕事を与えているだろうか。その答えがNOだとしたら、新人の学習機会を毀損したうえ、早く辞めてくれと言っているようなものだ。