なぜアルバイトは胸にバッジをつけているのか

このように「認知的徒弟制」によって育成され、「正統的周辺参加」で鍛えられた若手は安易に辞めようとはしないだろう。次の段階は、日々の仕事にやる気を持って取り組んでもらうことだ。そのヒントもマクドナルドに存在する。

マクドナルドの店舗を訪れたら、クルーの胸につけられたバッジに気づく人がいるかもしれない。バッジには商品やロゴなどカラフルなイラストが描かれたシールが貼ってあり、そのシールの数はクルーによって違う。シールは仕事の熟練度を表しているのだ。

通常のアルバイトでは在籍期間の長い人が先輩となり、それを基準に上下関係が存在する。何を習得すれば先輩と肩を並べることができるのかが明示されていることはほとんどない。「スキルを向上させたい」という後輩の意欲は、教えてくれる先輩の能力や自分との相性など、不透明な要因によって左右されてしまう。

マクドナルドは違う。シールという目に見える目標がある。新人であっても、シールを増やせば任される仕事も増え、先輩を追い抜くことができる。それが仕事へ取り組む意欲を引き出している。

さらに努力を重ねると、企業内大学であるハンバーガー大学で正社員とほぼ同じプログラムを受講でき、試験に合格すれば店長に匹敵したポジションであるスウィングマネージャーに昇格することもできる。

加えて、接客やポテト調理など部門別にスキルを競う「オールジャパンクルーコンテスト」が毎年開催される。常に自分のスキルの半歩先を意識させ、モチベーションを上げる仕組みが随所に用意されているのだ。

自分の職場で若手社員の定着が悪い、元気がないという前に、成長を実感できる機会をきちんと用意しているのか若手の身になって考えてみてはどうだろう。

最後に、上司であるあなた自身が前向きに輝いて仕事をしているだろうか。

「この人のようになりたい」と思わせる魅力的な人がいる職場では、若手の離職率も低いはずだ。そう、若手をなじるのは天に唾する行為に等しく、結局は自分たちに返ってくるのである。

(構成=荻野進介)
【関連記事】
『マクドナルドはなぜケータイで安売りを始めたのか?』吉本佳生
マクドナルドはなぜ人口減なのに大型出店を進めるのか
なぜマクドナルドの優良店は30分単位で考えるか
年16億人のお客様に1円多く買ってもらうには -日本マクドナルドHD会長兼社長兼CEO 原田泳幸氏
9割の幹部が交代「NOという奴は去れ」の本意 -日本マクドナルドHD会長兼社長兼CEO 原田泳幸氏