――大部屋では、各メンバーが、同時並行的に作業をしているのですか?
【黒川】そうです。「コンカレント」がキーワードです。以前のように、企画がまとまってから設計・開発の部隊へ渡され、設計ができたら試作品で実証実験を重ね、合格したら生産部門でつくり始めるという流れでは、たいへんな月日がかかってしまう。でも、試作までICTによって並行して進め、部品開発部門も担当する部品がどういう空間に入り、どういう環境で使われるのかまでわかるようになれば、大きな差別化になるはずです。あとは、実際段階での「つくり込み」だけ。この体制ができれば、日本の最大の強みになると期待しています。
――日本の製造業は、そういう体制をかなり築いていますか。
【黒川】他社の実情は知りませんが、携帯電話のように開発のリードタイムを大幅に短縮しないと生き残れない分野は少なくありませんから、かなり広がっていると思います。
――アジア勢は、いかがですか?
【黒川】韓国の電子メーカーなどは、ICTを活用してシミュレーションしているようです。ただ、企画から生産現場まで一気通貫にやっているという点では、富士通を含めた日本勢がいちばん進んでいるかもしれません。「コンカレント」に作業を進めるには、上流から下流までの部門が物理的に近くにいて、部門間の交流もしやすい日本の特徴が大きく貢献します。国内に技術を蓄積したマザー工場を持つべき最大の理由も、ここにあります。
1943年、埼玉県生まれ。67年東京大学法学部卒業、同年富士通信機製造(現富士通)入社。90年システム本部企画部長、99年ソフト・サービス事業推進本部長、取締役、2001年常務、03年4月副社長、同年6月社長。08年より現職。同年より富士電機社外取締役も務める。