設計と開発を軸に「5つの課題」を解く

――そうした道を進むうえで、製造業にとっての課題は何でしょう?

【黒川】ざっと、5つ挙げることができます。(1)需要に敏感かつ迅速に応える「ものづくり」の実現(2)国内の「ものづくり」の価値・訴求力を高める仕組みづくり(3)内外拠点間での「ものづくり」の手法の標準化(4)サプライチェーンマネジメントを考慮した生産拠点の連携と最適配置(5)グループ内に分散した生産技術や人材の集約とネットワーク化、です。もちろん、税制や人材育成など周辺環境の整備に、政府の積極的な取り組みも欠かせません。

――生産現場での「つくり込み」だけでは、その課題は解決できませんね。

【黒川】そうです。自分の経験から言えば、これまでの「ものづくり」に関する議論は、生産現場のみに焦点を当てた「狭義のものづくり」に集中しすぎていました。現場の知恵を集め、昨日より今日、今日より明日はよくしていく改善を重ねていくやり方では、製品の企画から販売までの流れのなかのごく一部に対象がとどまっています。でも、実際に付加価値が生まれるのは、設計・開発のところが1番大きい。そこに、「人の知恵を生かす」という工夫を持ち込む必要があります。

――そこで、ICTを生かす?

【黒川】ええ、設計・開発では目にみえないものを扱っていくわけですから、ICTをどう使ってみんなの知恵を共有しながら仕事をしていくかが、重要になります。自動車産業では、製品企画や開発から生産まで各段階でCAD(コンピューターを利用した設計)を使った第1世代、各段階の情報を全体で共有して3次元CADを使ってコンカレント(並行的)に作業を進める第2世代、コンピューターのなかでバーチャルに試作まで行う第3世代へと、進化してきました。とくに第3世代は「ものをつくらないものづくり」で、開発期間を大幅に短縮しています。

一方、私たちが手がけてきた電機の分野、例えばパソコンや携帯電話の市場は、自動車のように大規模な設備投資ができる規模ではないため、長らく「狭義のものづくり」の世界で戦ってきました。でも、富士通がいま取り組んでいる「ICTやロボットと協働したものづくり」のように、低コストで効率の高いICT環境が整備できて、自動車産業の第3世代と同様になりました。日本は、そうした新しい「ものづくり」を目指さないといけません。