心が軽くなる生き方は何か。古典教養アカデミー学長の宮下友彰さんは「哲学者のスピノザは、自分で物事を決める力である『自由意志』の存在を否定し、そのように考えることによってむしろ人生はラクになると提唱している。たとえば、部下から突然退職を告げられても、『事前にできたことがあったのではないか』と自分を責めるのは、自由意志を信じている人間の傲慢にしかすぎない」という――。

※本稿は、宮下友彰『不条理な世の中を、僕はこうして生きてきた。知っているようで知らない「古典教養の知恵」』(大和出版)の一部を再編集したものです。

退職届
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自分で物事を決める「自由意志」とは何か

「自由意志など存在しない」
――後悔に襲われたときに救ってくれた言葉

さて、「自由」とは、いったいどんな状態のことを指すと思いますか?

たとえば、休日にふと部屋の掃除をして、気分転換をしようと思い立ったとします。

実際に部屋の掃除をすれば、とても気持ちのいい1日が過ごせるでしょう。

あなたは、部屋の掃除をすることを「自由」に決めたのです。

この「ふと」「思い立つ」ように、自分で物事を決める力を「自由意志」と呼びます。

同じ部屋の掃除でも、親から「掃除をしなさい」と言われて、しぶしぶ掃除をしたなら、「部屋の掃除をした」という同じ結果であっても、その経緯にあなたの「自由意志」はかかわっていません。

ところが、哲学者のスピノザは、この「自由意志」の存在を否定します。

本稿では、そんな「自由意志」にまつわる思想についてお話しします。