プロのスカウトは高校野球選手をどのように評価しているのか。野球評論家・著作家のゴジキさんは「甲子園は短期間で行われる大会であり、そこでの活躍は選手の持つポテンシャルを示す一側面に過ぎない。スカウトは別の要素を見ている」という――。(第2回)

※本稿は、ゴジキ『データで読む甲子園の怪物たち』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

ホームランを打つ野球のバッター
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです

清宮が注目された中で圧倒的な活躍を見せる

2017年の夏の甲子園は大会前から早稲田実業の清宮幸太郎(現・北海道日本ハムファイターズ)が注目されていたが、西東京大会決勝で甲子園ベスト4まで勝ち上がった東海大菅生に敗れた。さらに、1年夏の甲子園に4番として出場した九州学院の村上宗隆や横浜で1年夏からレギュラーの増田珠(現・東京ヤクルトスワローズ)が注目されていた。

そんな有名選手揃いのなか圧倒的な活躍を見せ、甲子園のスターに躍り出たのが広陵の中村奨成(現・広島東洋カープ)である。中村は1年生でレギュラーを獲得。3年夏の甲子園での活躍は目覚ましく、全6試合の出場で6本塁打・19安打・17打点など数々の歴代最多記録に並び、あるいは更新する。

捕手で中軸を打つ中村は強打と強気なリード、強肩でチームを牽引。広陵は中京大中京、秀岳館、仙台育英、天理など強豪を次々と撃破し、決勝まで駒を進めたのだ。大会を通して圧倒的な活躍を見せ、甲子園の主人公となった。

元スカウトも絶賛するほど

初戦の中京大中京との試合ではいきなり2ホーマーを記録する。さらに、秀岳館戦と聖光学院戦も続けてホームランを放つ。秀岳館は当時3季連続でベスト4まで勝ち上がっており、優勝候補でもあったが、先発の川端健斗からは2安打を放ち、2番手の田浦文丸(現・福岡ソフトバンクホークス)からホームランを放つなどプロ注目の左腕2投手を難なく打ち崩した。このときの中村はもはや誰にも止められなかった。

この試合を見たヤクルトのスカウト責任者時代に古田敦也を獲得している片岡宏雄氏は、「難しいコースを簡単に打つ。インサイド、低めと、普通の打者が苦労するところに自然にバットが出てくる。タイミングの取り方も、陽岱鋼のようにゆったりとしているので、ボールをひきつけることができて選球眼もいい。対応もしっかりとできるんだと思う」とコメントするほどだった。

聖光学院戦は、4対4の同点で迎えた9回にツーランホームランで試合を決めた。いずれも接戦の場面でかつ試合を決定づけるホームランを放ったことにより、ただ単に成績だけがいいのではなく、チームの勝利のために打っていたことがわかる。